ソン・ガンホ出演作にハズレなし! ポン・ジュノ、パク・チャヌクらに求められ続ける理由
カンヌ国際映画祭でのパルムドールに続き、アカデミー作品賞の受賞で大ヒット中の『パラサイト 半地下の家族』。その主人公を演じたソン・ガンホというと、不器用ながらも懸命に生きる市井の人、というイメージが大きいかもしれない。
確かに筆者もそのイメージが強かった。2018年公開の『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』でも、ソン・ガンホはしがないタクシー運転手で、当初はソウル市内で行われているデモ隊に対しても「デモをするために大学に入ったのか?」「何不自由なく育ったからだ。いっそサウジアラビアの砂漠で苦労させればこの国で暮らすありがたみが分かる」とぼやくような、いわゆる保守的で、自分と自分の家族が生きるために必死な“おじさん”を演じていた。
しかし、その後はひょんなことから、ドイツ人の記者をタクシーに乗せることになり、次第に光州で起こっている真実を世界に伝える必要に気づく。
こうした、憎めないダメなおじさんという役柄は、ソン・ガンホには非常に多い。『パラサイト』のポン・ジュノ作品では、やはり『グエムル -漢江の怪物-』にしても、『スノーピアサー』にしても、決して裕福ではないが気のいい父親であった。
『タクシー運転手』のチャン・フン監督の2作目の作品である『義兄弟 SECRET REUNION』にもソン・ガンホは主演。脱北者を追う中で死傷者を出し、免職される元刑事を演じていて、その性質はやはりちょっとダメなおじさんである。
『義兄弟』は、事件にかかわっていたカン・ドンウォン演じる北朝鮮の工作員の青年と、ソン・ガンホ演じる元刑事が再び出会い、お互いの立場を知りつつも、そ知らぬふりで共同生活をする中で、タイトルの通り「義兄弟」となっていく様子を描いた作品。北と南の本来ならば相反する立場にいる2人の男が、不思議な引力と情で結びついていく様子が作品の肝になっており、2019年公開の『工作 黒金星と呼ばれた男』などにも通じるものがあった。
もっとも、北と南に暮らす男たちの友情ものでいうと、ソン・ガンホ自身、2001年公開の映画『JSA』で経験済である。本作は日本でも大いに話題となったが、改めて観返してみると、パク・チャヌクの監督作だけに、今でも十分に引き付けられるものがあった。
『JSA』のソン・ガンホは朝鮮人民軍の士官であり、国境を警備する韓国軍の兵士とひょんなことから知り合い、夜な夜な北側の監視小屋で共に過ごすこととなる。小屋でのなんでもない時間が尊いが、この愉しみはいつかは失われるときがくるのだという予感を視聴者側も共有できているから、兵士たちが楽しそうにすればするほどどこかせつないものがある。
本作では、イ・ビョンホンが韓国側の兵士を演じているのだが、今の大人の魅力を持ったイ・ビョンホンとは違い、下っ端のまだあどけない魅力が爆発しており(今演じるならド・ギョンスがやれば似合うような役だ)、そんなビョンホン演じる若き兵士が、ソン・ガンホ演じる北川の士官に「兄貴(ヒョン)と呼んでいいですか」というシーンもある。「ヒョン」という呼び方が北と南の間で交わされるということの重みも感じて、それだけでジーンと来てしまう。それと同時に、これこそが「義兄弟」の物語だなと思わせるものがあった。
『JSA』は先にも書いた通りパク・チャヌクの監督作なのだが、夜の重苦しい映像美などには、パク・チャヌクの独自の作家性を感じはするものの、どこか職人的に撮っているような印象もあった。