『ちむどんどん』なぜ房子は暢子をシェフ代行に任命したのか? “身内びいき”ではない理由

『ちむどんどん』房子が暢子を選んだ理由

 二ツ橋(高嶋政伸)の入院でシェフ代行を任されることになった暢子(黒島結菜)。まさかの抜てきに驚いたのは暢子だけでなかった。矢作(井之脇海)や同僚たちは失望し、あからさまに反発する。暢子の前で「結局身内か」「世の中、コネにはかなわねえな」と不満を隠そうとせず、先が思いやられた。

 『ちむどんどん』(NHK総合)第52話。シェフ代行の仕事には、味付けや盛付けの判断、コースメニューの確認も含まれる。品質を保ちながら、適切なタイミングで料理を提供するように指示しなければならない。しかし、シェフ代行として厨房に立った暢子は味見を求められて曖昧な指示をした上、ホールの状況まで頭が回らず、客を長時間待たせてしまう。厨房内の空気はいつにも増して殺気立っているが、そんな時に限ってトラブルが勃発するもの。客として訪れていた和彦(宮沢氷魚)が上司で編集局長である笹森(阪田マサノブ)ともみ合いになり、投げ飛ばしてしまった。店内は騒然とし、食事をせず帰る客もいた。

 二ツ橋が「強いて挙げるとすれば」と言っていたくらいなので、暢子が力不足なのは明らかだが、他のメンバーもたいして変わらない。暢子よりキャリアの長い矢作も、前日、同僚を怒鳴り散らし、ミスを誘発していた。実力では一長一短がある中で、房子と二ツ橋はなぜ暢子を抜てきしたのだろうか? 房子は暢子を一人前の料理人にしようとして、陰ながら目をかけてきた。また、二ツ橋は暢子の味覚やセンスを信頼しているようだ。そのことは、自分が辞めた場合に備えて暢子を魚市場に連れて行ったり、暢子の料理を適切に評価してきたことからも明らかだ。暢子には、将来シェフとして厨房を仕切る素養はあるのだろう。

 では、なぜこの緊急時にあえて矢作や他の同僚ではなく、暢子を起用したのか。もし理由なく暢子を抜てきしたのなら、身内びいきという批判にも根拠がある。しかし、それもちゃんと理由がある。暢子がシェフ代行にふさわしいのは、味を決断できるからだ。小さい頃、賢三(大森南朋)から「これが美味しいと思ったものを出しなさい」と自分の感覚を信じることを教わり、自分が美味しいと思うものを追求してきた。時には、それが客の求めているものと違っていることもあったが、その都度試行錯誤を重ねて、みんなが美味しいと思えるものを作ってきた。

 そんな暢子なのでフォンターナの味を守りながら、お客様に応じて料理を提供し、発展させていけるはずだ。「おいしいものノート」をつけながら、厨房で腕を磨いてきた暢子の成長は目覚ましく、責任ある立場を経験させることで、さらに自分に足りないものを自覚して努力するのではないか。「あえて」の起用は、これらを踏まえた期待値込みの抜てきだった。残念ながら初日のオペレーションを見る限りでは、暢子のシェフとしてのポテンシャルは開花しているとはいえない。けれども、そこは数々の逆境を乗り越えてきた暢子である。きっと暢子にしかできない方法で厨房をまとめ上げて、最高の料理を提供してくれるだろう。

※高嶋政伸の「高」はハシゴダカが正式表記。

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK

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