山下智久の誠実な演技が“正直”に届いた『正直不動産』　シーズン2も期待したくなる最終回

　正直にならざるを得なかった男は、いつしか“真の正直者”になっていた。『正直不動産』（NHK総合）の最終回は、自分の生き方を問う大きなテーマが描かれる。永瀬財地（山下智久）が本当に大切にしたかったもの、自分の人生の中で優先したかったものはなんだったのか。登坂社長（草刈正雄）、月下（福原遥）、桐山（市原隼人）、そして榎本（泉里香）との交流で、永瀬は大切なものを見つけるのであった。

　ミネルヴァ不動産が登坂不動産に対して全面戦争を仕掛ける。ピンチになった登坂不動産は、社員総出でなんとか会社の存続を守ろうと手を尽くしていた。そんな時、神社で祟りが消えるようにとお参りをした永瀬。これをきっかけに永瀬は正直風に吹かれることもなくなり、また過去のような嘘つき営業でぐんぐん業績を伸ばすのであった。

　しかし、このことで月下からは、「今の永瀬先輩は尊敬できません」と言われ、永瀬本人も客へのうしろめたさにモヤモヤとした気持ちを抱えることに。結局永瀬は嘘をつき続けることができず、契約解除の危機が訪れた際に、不利だと分かりながらマンションオーナーの藤堂（でんでん）に真実を伝える。するとそこに、第1話で登場した和菓子職人の石田（山崎努）が現れ、永瀬のことを“馬鹿正直な男だ”と言いながらそっとアシストをする。永瀬は過去の正直営業で得た信頼関係に救われることとなった。

　利益のためなら嘘をついていいのか、会社を再生するためなら客を裏切るような契約を結び続けていいのか。永瀬は苦悩する。しかしこれまで正直営業を続けてきたことで得た信頼や、仲間との絆が永瀬を“正直者”にした。それは、客に対しての誠意だけではない。永瀬は仕事で本音を話し続けることで、最後は自分自身に対しても“正直者”になれたのだ。自分がどんな不動産屋になりたいのか、どんなポリシーで仕事をしたいのか、次第に永瀬の考えには、はっきりとした輪郭が見えてくる。業績やタワマン、名誉のためではなく、己を恥じないための生き方をしている永瀬には、月下や榎本同様、視聴者も惹かれたことだろう。そして月下をはじめ、自分の心に背きかけた永瀬をそっと引き留める大切な仲間たちの存在もまた、魅力的であった。もちろん永瀬は嘘をつけなくなったことで失ったものも多い。だがその代わりに、かけがえのないものを手にしたのではないだろうか。

　全10話を通し、永瀬を演じた山下智久の個性あふれる芝居に釘付けになった。風が吹くと本音を話してしまうというファンタジー要素に加え、コメディ演技も要求される本作。ただ動作としてやるべき仕草をまねて、覚えた言葉を話すだけでは到底成立しなかっただろう。風に吹かれた時の永瀬の葛藤、信頼を得た時の充足感、尊敬する人たちと出会い心が温まる瞬間、自分の信念を持てた喜び。そのどの芝居においても永瀬の人生の奥行きが感じられ、あり得ない設定のパートでさえ、スーッと心に届き真正面から受け止められる。まさに山下が芝居に向き合う誠実な姿が、「正直」に視聴者へと届けられたのだろう。