山下智久の永瀬は観ていて気持ちがいい! 『正直不動産』が視聴者の心を掴んだ理由

『正直不動産』が視聴者の心を掴んだ理由

 こんなに観ていて気持ちがいい、真っ直ぐなドラマはあまりないのではないか。ドラマ10『正直不動産』(NHK総合)が6月7日に最終話を迎える。「ほこらを壊した」たたりで嘘がつけない体になってしまった主人公、山下智久演じる登坂不動産の営業マン・永瀬財地の「正直営業」、そして、彼を取り巻く個性的な「家を売る」人々の物語は、多くの視聴者の心を掴み、離さなかった。その静かな熱狂は、3度にわたる再放送の決定や、「感謝祭」と銘打った異例の特別番組の放送が予定されていることからも見て取れる。

 どうして多くの人の心を掴むことになったのか。第一に、「正直者が馬鹿を見る」ことが多い世知辛い世の中において、主人公が「正直」を貫き、それが周りも自分も幸せにしていくというエピソードがなにより爽快であるということ。日頃仕事をしたり、人と関わったりする中で、ただ「正直でいる」ことが難しいと感じることもある。「ライアー永瀬」ほどではないけれど、自分にも他人にもちょっとずつ嘘をつくのに慣れていくのが大人なのだと言い聞かせて生きている人が、世の中の大半なのではないだろうか。

 永瀬もまた、元は「チャラいんだけど嘘はつかない真面目なやつ」だったにもかかわらず、就職して営業トップを目指すうちに、「客を人だと思わない」営業スタイルになり「ライアー永瀬」と言われるようになってしまった過去があった。だから、(たたりによる)「風」に吹かれて、嘘をつけない「正直営業」に切り替わったことで、結果的には「お客からも感謝されて、金も儲かる。会社にも貢献できた」という、かつて志望動機として登坂(草刈正雄)に語っていた言葉に繋がる仕事の充足感を味わうことになった。つまり、たたりによる「風」というファンタジー要素はきっかけに過ぎず、基本は働く人々の日常に根付いていることが魅力の一つだろう。また、永瀬本来の実直な性格ゆえに、「嘘がつけなくなること=自分の心に正直になること」として描かれているのも好印象だ。

 次に、「お仕事ドラマ」としての秀逸さである。原作は、大谷アキラ(漫画)、夏原武(原案)、水野光博(脚本)による同名コミック(ビッグコミック)。さらに、脚本を手掛けたのが、昨年の傑作お仕事ドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)ほか様々な作品を手掛けている根本ノンジであることが大きいだろう。不動産業界の豆知識をわかりやすく、アニメーションやテロップつきで教えてくれることの面白さのみならず、個性の強い登場人物たちが実にバランスよく配置され、演じる俳優たちの魅力がより引き立つ構造になっている。

 また、第9話の榎本(泉里香)と永瀬との「養う、養ってもらう」を巡るやり取りにおける「そういう時代、もう終わってますよ」の一言をはじめ、さりげなく示される時代のアップデートも心地よい。仕事への闘志を漲らせる花澤(倉科カナ)、月下(福原遥)の2人の姿からオープニングが始まった第9話は特に、女性たちの物語だった。月下、榎本、花澤という、それぞれの仕事に誇りと信念を持って働く、真摯でキュートで強い女性たちもまた、魅力的である。

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