レンタル彼女、パパ活、整形依存…… 吉川愛主演『明日カノ』から考える“幸せ”のハードル

『明日カノ』にみる“幸せ”のハードル

 もちろん、パパ活などは性犯罪の被害も跡を絶えず、その危険性から否定的な意見を持つ人も少なくない。しかし、レンタル彼女に関しては事務所に所属して、しっかりとしたルールの中で管理される職業だ。働く子たちも、それぞれにいろんな事情があってのことだろう。それでも偏見によって実際とは違うイメージを持たれてしまう。しかし、全てのことに通じて言えることだが、当事者以外に、その人の人生や生き様の正解が分かることなんてない。他人の生活が見えやすくなったからこそ、知った気になる、むしろ知っておかなければ気がすまない、という人が増えたように思える。それでもなお、先入観や偏見は容易くなくならないことを各話の主人公たちが受ける言葉から理解することができるのだ。

 整形依存の彩(宇垣美里)は交際相手に「整形は努力じゃない」と言われる。しかし、それは彩の実情を知る由もない彼の考えだ。別に、彼女が彼に対して自分が整形を受けるに至った実情をプレゼンして、整形を肯定してもらう必要もない。結局のところ、他人に否定される自分の幸せや価値観を、いかに自分自身が肯定できるのかという問いの答えを、本作のヒロインらが探し続ける点に意義を感じる。そして皮肉にも、一方で彩が彼氏の友達の奥さんをルッキズムに基づいてジャッジし、批判していたこともドラマ内で取り上げられている。そういうことが一方通行のものではなく、相互的に行われていることも本作は描いているのだ。

 こんなにも今、多様性が支持されている世の中で、本ドラマの彼女たちのような生き方は「多様な生き方」の一つとして受け入れられないのか、という点は非常に考え深いテーマだ。しかし、それと同時にそんな彼女たちが“幸せ”を求めてもがく姿もしっかり刮目したい。

 本作で挙げられる社会問題の本質は別に今に始まったことではなく、ずっとそこにあったものだ。問題は、先述のようにSNSによって他人の生活が見えやすくなってしまったことであり、そこには自分とその相手を見比べることで「あっちの方が“幸せ”で、私は不幸」など、他人の生活を幸せの指標にしてしまう危険性がある。お金が欲しい、もっと可愛くなりたい。そういう欲望は、自分よりもその点で優れている相手への羨望に起因する。しかし、それで始めたパパ活や整形依存の歯止めは効かなくなってしまうだろう。なぜなら、“他人が思う幸せ”を身に纏って誰かのような暮らしをしても、自分を見失ってしまうだけだから。大切なのは、本作のヒロインたちのように“自分にとっての”幸せを追求する思考を持ち続けることなのではないだろうか。

■放送情報
MBS/TBSドラマイズム『明日、私は誰かのカノジョ』
MBS/TBSにて放送中
MBS:毎週火曜深夜0:29〜/TBS:毎週火曜深夜1:28〜
出演:吉川愛、横田真悠、齊藤なぎさ(=LOVE)、箭内夢菜、楽駆、井上想良、ゆうたろう、福山翔大、藤原樹(THE RAMPAGE)、高野洸、宇垣美里ほか
監督:酒井麻衣、近藤幸子、菅原正登
脚本:三浦希紗、川原杏奈、イ・ナウォン
原作:『明日、私は誰かのカノジョ』をのひなお(サイコミ/Cygames)
オープニング主題歌:Amber’s 「Desire -欲情本能-」
エンディング主題歌:DUSTCELL「足りない」(KAMITSUBAKI RECORD)
製作:「明日、私は誰かのカノジョ」製作委員会・MBS
(c)「明日、私は誰かのカノジョ」製作委員会・MBS
公式サイト:https://www.mbs.jp/asukano/
公式Twitter:@dramaism_mbs
公式Instagram:dramaism_mbs

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