『ベター・コール・ソウル』これまでと様子が違うS6 マイクの贖罪が最後の見どころに?
アルバカーキを脱出後、シナボンの店長ジーンとして世を偽るソウル・グッドマンからシーズンをスタートするのが恒例だが、『ベター・コール・ソウル』最終シーズンはちょっと様子が違う。
※本稿は第1、2話ネタバレを含みます。
豪華で悪趣味な邸宅が差し押さえを受けている。プールに浮かぶのは……等身大のソウル・グッドマンパネルだ。そして作業員がボトルキャップのような物を道に落とす。覚えている人はいるだろうか? これはシーズン2第1話に登場した一杯50ドルの高級(架空)テキーラ“サフィロ・アネホ”のボトルキャップだ。ジミー(ボブ・オデンカーク)とキム(レイ・シーホーン)がたまたまレストランに居合わせた株屋を嘘八百で騙し、無銭飲食をした際に「(ボトルを飲み切った)記念にどうぞ」と店から渡された代物である。そしてこれはキムがジミーの口車に乗って、初めて悪事を働いた“記念品”でもある。謎掛けのようなオープニングシークエンスはヴィンス・ギリガン組の得意技。『ベター・コール・ソウル』におけるそれはさらに磨きがかかっている。
そう、いよいよファイナルシーズンを迎えても『ベター・コール・ソウル』は“静かに、しかしより熱く”という語りのプリンシプルを崩したりはしない。ガスによる暗殺指令を生き延びたラロ・サラマンカ(トニー・ダルトン)が、よろよろと荒野の一軒家に現れる場面は不気味な怖さだ。彼の来訪に女性が快くコーヒーを振る舞う様子から、ラロ邸にいた人々と同様、ラロが面倒を見てきた人物とわかる。そこへボサボサの無精髭をたくわえた夫が帰宅し、ラロは言う「オレみたいな髭にしたらいいんじゃないか?」。そして「旦那の歯は治ったか?」。どうやらラロは自分の邸宅近くに影武者要員としてこの夫婦を住まわせているのだ(当人たちは知る由もない)。武闘派ばかりのサラマンカ・ファミリーにおいて、頭脳派ラロが冷酷な殺しまで計算に入れていることがよくわかる、背筋が寒くなるようなシーンである。
そんなラロの背後には敬虔な夫婦による十字架が飾られている。ラロはもはや『ノー・カントリー』でハビエル・バルデムが演じた殺し屋シガーのような、死を司る超自然的な存在になりつつあるのではないか。不法移民に紛れてメキシコ脱出を試みれば、高額な仲介料を取ったブローカーを血祭りに上げ、憐れな移民たちに金を返す。ラロ・サラマンカはアルバカーキ・サーガ最高の悪役として、ガス・フリング(ジャンカルロ・エスポジート)を超えるかも知れない。
一方、ラロ暗殺を手引したナチョ(マイケル・マンド)は裸一貫でメキシコからの脱出を試みていた。辺りは農民から警官に至るまで全てサラマンカ・ファミリーの手の内だ。指示されたモーテルで迎えの車を待つも、向かいの廃屋がどうにも怪しい。ガスはラロ殺害の目が自分に向くことを避けるため、カルテルがナチョを追うように餌を撒いていた。ナチョの逃亡劇はシーズン6エピソード1〜2最高のテンションであり、アルバカーキ・サーガが現代西部劇であることを思い出させてくれる。
そしてマイクはナチョを救い出すことができるのか? マイクはナチョにかつて警察内部の汚職によって命を落とした息子の姿を見出しており、彼の贖罪が『ベター・コール・ソウル』最後の見どころの1つになるかもしれない。