『元彼の遺言状』が問う殺人教唆の境界線 ようやく見えた綾瀬はるかの“弁護士の顔”

『元彼の遺言状』が問う殺人教唆の境界線

 5月16日に放送された『元彼の遺言状』(フジテレビ系)第6話は、第3話以来の原作ありエピソード。ベースとなっているのはドラマタイトルに使用されている小説の続編短編集『剣持麗子のワンナイト推理』の一編「手練手管を使う者は」で、事件現場をバーから教会に、ホストの“信長”を殺す同僚の名前も“光秀”から“森蘭丸”に変更。あらかじめ視聴者に彼が罪を犯したことを提示するという『古畑任三郎』(フジテレビ系)形式で物語を運ぶことで、今回は探偵ものでもミステリものでもない、独自性が垣間見えたように思える。

 黒丑(望月歩)のもとに同僚ホストの蘭丸(味方良介)から「助けてほしい」と連絡が入り、ある教会の仮眠室に駆けつけた麗子(綾瀬はるか)と篠田(大泉洋)。そこではNo.1ホストの信長(土井一海)が殺された状態で横たわっていた。2人で飲み直している途中で自分は眠りに落ち、目を覚ましたら信長が死んでいたと供述する蘭丸だったが、その発言や現場の様子に違和感を覚える麗子。本来であれば金にならない仕事は引き受けない主義の彼女だったが、蘭丸が旧財閥の大手企業の社長の息子であることを知り依頼を引き受けることに。そして蘭丸に「私に嘘はつかないこと」という条件を提示するのである。

 視聴者にあらかじめ犯行現場を見せているという点を抜きにしても、明らかに蘭丸が信長を殺していることが明白な状態で「依頼人が無実と言っているから絶対に無実」だと言い続ける麗子。彼女の“金にがめつい”という部分以外の、弁護士としての矜持、もしくは職業性が見えるエピソードであったことは間違いない。回想で振り返る栄治(生田斗真)との大学時代のやり取りや、真相を突き止めた後に「嘘をつく依頼人だけは弁護できません」と自ら辞退したり、“手練手管”で蘭丸に犯行を仕向けた木下神父(尾上寛之)に「人に裁きを下せるのは、神でもあなたでもなく法律だけ」と言い切ったり。ようやくドラマ的な弁護士としての顔を持ち始めたように思える。

 その木下が、7年前に渋滞にはまってしまったことで病院に向かうはずだった子供を失ってしまったという背景。その渋滞の原因を作ったのが若き日の蘭丸と信長が起こした傷害事件であり、そのことを信長から聞かされたことで、ちょうど信長と保険金をめぐる諍いが生じていた蘭丸に殺害を仕向けさせると。前回からモチーフになることが示されていたガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』はあくまでも“密室”を扱うことを示すだけに留めるミスリードとして機能させ、その実は終盤でちらりと画面内に登場するアガサ・クリスティーの『鏡は横にひび割れて』といったところだろうか。

 いずれにせよ、劇中に描かれた木下の一連の行動だけで殺人教唆が成立するのか否か。第4話でもミステリ小説の内容が殺人教唆になるのかという問いが描かれていたわけだが、今回はそこに限りなく“信仰心”が介入することでより難解な問いに変わる。劇中ではあまり深く追究されていないだけに、大変興味をそそられる部分だ。

■放送情報
『元彼の遺言状』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、大泉洋、生田斗真、関水渚ほか
原作:『元彼の遺言状』新川帆立(宝島社)
脚本:杉原憲明
演出:鈴木雅之、澤田鎌作
プロデュース:金城綾香、宮崎暖(「崎」はたつさきが正式表記)
音楽:川井憲次
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/motokare/
公式Twitter:@motokare_cx_
公式Instagram:@ motokare_cx

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