『二十五、二十一』が描く青春の“回復力” 長い人生を輝かせる、愛と友情と成長痛の記憶

『二十五、二十一』が描く青春のレジリエンス

 韓国ドラマ『二十五、二十一』が結末を迎えた。このドラマは、2月の配信開始から最終回まで、一貫して人々にエールを送り続けていた。輝かしいばかりの青春時代をコロナ禍に奪われてしまった少年少女たち、そして未曾有の状況にうろたえる、かつて少年少女だった大人に向けて。ドラマのテーマは、レジリエンス=しなやかな回復力だったのではないかと思っている。若さの特権は、夢中でぶつかり、傷つき、玉砕し、それでも立ち上がれること。ボロボロで惨めだった姿さえも誇りに思える経験が、長い人生に訪れる幾多の選択を肯定する。

二十五、二十一

 主人公、フェンシングに燃える18歳の高校生、ナ・ヒドを演じるのは、映画『お嬢さん』(2018年)、『スペース・スウィーパーズ』(2021年)のキム・テリ。母の青春時代を、Z世代の娘が紐解いていく構成だ。ヒドが出会う、4歳年上のペク・イジンを、『スタートアップ:夢の扉』(2020年)、映画『ジョゼと虎と魚たち』(2020年)のナム・ジュヒョクが演じている。舞台は1988年。イジンの親は、IMF通貨危機によって財を失い一家離散となってしまう。ヒドはフェンシング界のスターのコ・ユリム(ガールズグループ「宇宙少女」のボナ)に憧れ続け、彼女のライバルになることを夢みている。ヒドとユリムの同級生ムン・ジウンとチ・スンワンを含め、5人はかけがえのない青春の日々を過ごす。

 現代、ヒドの娘キム・ミンチェはトップバレリーナを目指している。だが、パンデミックの渦中に目標を失い、祖母の家に逃げ込む。そこで、古い手書きの日記帳を発見し、フェンシングの金メダリストとして輝かしい青春を送ったと思っていた母の初恋を知ることになる。日記に書かれていたのは、ライバルのユリムに対する思い、ニュースキャスターの母への反発、そして、ミンチェが知らないペク・イジンという男性との関係。視聴者も、ミンチェの目線でヒドとイジン、そしてユリム、ジウン、スンワンの青春時代を紐解いていく。

二十五、二十一

 1998年、IMF通貨危機によって韓国経済は大混乱に陥り、若いヒドもイジンも夢を奪われていた。不可抗力によって夢や希望を絶たれた者たちの姿は、2020年から今も続いているパンデミックによって、人生に一度だけの青春時代の思い出を奪われてしまった若者たちと重なる。人生にはつらいこと、やるせないこともたくさん起きるけれど、全力でぶつかった一瞬の思い出があれば、乗り越えられることもある。ヒドたち5人は、それぞれ荒波に揉まれながら最善を尽くし、青春を自分たちのものにする。5人で過ごした短い夏、寄せては返す波は、これからの人生にたくさんの荒波がやってくることを表すようだ。夢中で波にぶつかり、気がついたときには美しい夕陽が水面を照らす。まるで、人生の終わりには全てが美しい思い出となって浮かんでくるように。

二十五、二十一

 1997年の通貨危機から2001年のIMF支援脱却、そして現代に至るまでは、韓国経済回復の歴史でもある。ヒドたちが経験する青春時代の痛み、傷、努力は、ヒドが娘のミンチェに訓じる成長曲線を大きくする。韓国経済が苦しい不遇の時代を経て、世界的に影響力を示せるような国に復活していったように。憧れのライバル、ユリムに挑むヒドの強みは、誰よりも負けた経験があること。ドラマ序盤の必要以上に元気で力の入ったヒドのキャラクター設定は、全体のテーマ“回復力”にかかっている。彼女の脆さは、日記の中だけに記されているが、「どんなときでも応援する」と言ってくれるイジンの存在を得て、だんだんと露見していく。フェンシングでも人間関係でも、戦略や戦術ではなく押して押して押しまくり勝利を掴むスタイルのヒドだが、恋愛によって自らの脆弱性を思い知る。そんなヒドが身を引く理由、この経験から彼女が選手として、人間として大きく成長することは、ナ・ヒド選手をずっと見てきたペク・イジン記者の目には明白だ。

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