『カムカムエヴリバディ』安子とるいはそっくりの親子 “逆走リレー”のゴールはすぐそこに
「そなたが鍛錬し、培い、身につけたものはそなたのもの。一生の宝となるもの。されど……」
アメリカでアクション監督として成功を収めたブン・イガラシ(本郷奏多)を支えた虚無蔵(松重豊)の言葉には続きがあった。
『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第109話冒頭、新しく始まるラジオ英語番組の講師を依頼され、迷いの最中にいたひなた(川栄李奈)が映画村を訪れる。辛い時や悲しい時、落ち込んだ時、何となく不安な時、彼女は度々この場所を訪れては思いを巡らせていた。
侍のように凛として、弱音を吐かず、こうと決めたことは命懸けでやり遂げる。そういう人になりたいと願いながらも、肝心のやりたいことが見つからなかったひなた。しかし、大好きな時代劇と映画村を救うべく、来るべき日に備えて英語の勉強を続けた先に思わぬ未来が待っていた。2003年のクリスマス。英語が結びつけてくれた縁をひなたは必死で手繰り寄せていた。一度は切れてしまった、安子(森山良子)とるい(深津絵里)の縁を結ぶために。
空港にすでに安子の姿はなく、肩を落としながらも「居場所はわかったんやさかい、こっちから連絡したり会いに行くことはできる」とるいを説得するひなた。かたや、先ほどまで安子を自ら追いかけようとしていたるいは、諦めと寂しさが混じった表情で「お母さんのことや。アメリカに帰ったらキャリアも何もかも捨てて、そのまま姿を消す思う。そういう人やさかい、私のお母さんは」とつぶやく。
やっぱり、安子とるいはそっくりの親子だ。いつだって自分を犠牲にして、ついには大切な娘の手を離してしまった安子も、そんな母を追いかけたいのに、本音と一緒に扉の奥に隠れてしまうるいも自己完結してしまうところがよく似ている。私たちもそうなのかもしれない。みんなどこかで、安子やるいと同じように「人生とはこういうもの」と自分の気持ちに折り合いをつけて現実を生きている。でもそのままアメリカに帰るはずだった安子の足が岡山へ向いたように、誰もが自分の道を照らしてくれる光を求めずにはいられない。『カムカムエヴリバディ』はそんな諦めの悪い人たちの物語なのだ。