『時光代理人』李豪凌監督の卓越した手腕 新海誠作品へのオマージュとアンサーも
近年の中国アニメの発展には目を見張るものがある。日本でもヒットした『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』では、2Dアニメーションにおけるアクションの華麗さや豊富さ、キャラクターの魅力が日本でも高く評価された。また中国でも主流になりつつある3DCGでは『白蛇:縁起』など、日本の技術を凌駕し、アメリカに迫る勢いではないかと感じる作品も出てきている。
世界のアニメーション文化を見比べると、アメリカはカートゥーンやディズニー流のCGアニメ文化、ヨーロッパはアート系アニメーションが主流で、日本のアニメ表現とはキャラクター造形なども含めて大きく異なる。一方で中国のアニメーション文化は日本のアニメに近く、もはや“日本のアニメ”が、”東アジアのアニメ”に変化しつつあるように感じられる。
その中で登場したのが『時光代理人 -LINK CLICK-』だ。主人公のトキ(程小時)とヒカル(陸光)は写真館に務めており、2人が手を合わせることで1枚の写真の中に入り、写真の中の人物として行動することができる能力を持つ。トキは写真の中に入ることはできるが何も知らず、ヒカルはその人物の過去と未来を知るため、トキに指示を与える。そして時には過去を改変しそうになりながらも、2人でミッションをクリアしていき、依頼を達成していくというストーリーだ。
直情的で熱血漢のトキと、どんな時も冷静沈着なヒカルの組み合わせがバディとしても面白く、キャラクターの魅力も備えている。同時に過去を辿ることで写真の中の人物がどのような人生を歩んできたかを知るとともに、その後に訪れる劇的な展開に人生が変化していく様など、いくつものドラマも味わうことができる。
今作は中国で誕生したアニメ作品の中でも、日本人でも馴染みやすいだろう。日本で放送や公開されてきた中国のアニメーション作品とは一味違う印象を受ける。『羅小黒戦記』などのように、中国のアニメーション作品は道士と呼ばれる仙人のようなキャラクターが登場し、派手なアクションを繰り広げるイメージがあった。
一方で『時光代理人』は、一見すると日本のアニメと区別がつかない。現代の中国の都会を舞台としており、キャラクターたちも特殊能力はあるものの仙人などとは異なる現代的な風貌で、日本に置き換えてもどこの街にもいそうな服装をしている。街の看板やアプリのやりとりなどの中国語の表記で、本作が中国のアニメーションであることに初めて気がついた視聴者もいるのではないだろうか。