『時光代理人』李豪凌監督の卓越した手腕 新海誠作品へのオマージュとアンサーも

 監督を務めた李豪凌(リ・ハオリン)は、1986年生まれの36歳。李監督が日本アニメ界から注目を集めたのは、実は今作が初めてではない。中国と日本のクリエイターたちが集まったアニメ映画『詩季織々』でも総監督を務めており、写実的で美しいアニメーション表現に賞賛の声が多く集まった。

『詩季織々』 予告篇

 李監督は熱心な新海誠監督のファンとして知られており、上記の『詩季織々』の中でも新海監督作品に重なる写実的で美しい背景描写や、オマージュが随所に散りばめられていた。その影響は今作でも健在だ。

 『時光代理人』第1話では、仕事に奔走し上司との関係に悩む女性、エマを中心に物語が展開されていく。ここで描かれているエマの生活は、まるで日本のOLを見ているようで、親近感が湧くのではないだろうか。この女性像の描き方には、新海の初期作品である『彼女と彼女の猫』や、あるいは『言の葉の庭』で描かれていた働く女性像を連想させる。

 特に細かい描写になるが、エマの暮らす家のドアが閉まる様子や、部屋の適度な荒れ具合からは、現代中国の一般的な独身生活を表現しているのと同時に『彼女と彼女の猫』のワンシーンに重なるものがある。これは多くの新海作品で美術監督も務める丹治匠が、今作でも美術監督として参加していることも要因だろう。

 その他にも新海の影響と伺えるシーンはいくつもある。第2話における料理表現の美しさであったり、あるいは新海作品常連の天門の音楽の魅力、そして音楽と物語をリンクさせることで、より印象深いエモーショナルなシーンを生み出す手法などは、まさに新海の影響と言えるだろう。また第3話から第5話で描かれている大きな災害に対して、過去に戻り関与するというのは『君の名は。』に対する李監督のアンサーという解釈も成り立つ。

 日本アニメのオマージュや良いところを模倣し、力のあるアニメ表現を発表することができる実力が中国アニメーションにはあるという証明にもなっている。それと同時に、李のオリジナル要素も多く発揮されている。

 例えば第1話の展開である。途中までは人情味のある話が展開されていたが、最後で突き落とす物語の手法は、多くの視聴者に驚きを与えた。第1話のラストはこれから始まるシリーズへの大きな期待を掻き立てると共に、本作がシリアスな方向に向かう可能性もあることを示唆していた。だからこそ、第2話で美しい人情噺が披露された際に、視聴者は悪い展開にならないことに安心感を覚えて涙することができる。ドラマの作り方がうまく、視聴者を惹きつけることを重視している印象だ。

 近年の中国アニメーションを見ていると、日本アニメの影響を受けつつも、また違う味わいを生み出す方向に舵取りしている印象がある。『君の名は。』などの日本アニメが中国でもヒットしたように、今はまだ日本でも馴染みが薄い中国アニメーションが、普通に楽しまれる日もそう遠くはない。アニメの発展のためにも映像、物語を含めて良好な関係で切磋琢磨していき、レベルを高めあってほしいと願う。

■放送情報
『時光代理人 -LINK CLICK-』
TOKYO-MXにて、毎週日曜21:30~放送
BS11にて、毎週日曜22:30~放送
監督・脚本:李豪凌/リー・ハオリン
キャラクターデザイン原案:INPLICK
キャラクターデザイン:LAN、 黄思萌/ホワン・スーモン、 熊丹/ション・ダン
演出・総作画監督:LAN
美術監督:丹治匠、 朝見知弥
撮影監督:山条裕香 
音楽:天門、 yuma yamaguchi、 av4ln
アニメーション制作:瀾映画
日本版製作:株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ、株式会社アニプレックス
日本語吹替版キャスト:
トキ/程小時(チョン・シャオシー) :豊永利行
ヒカル/陸光(ルー・グアン):櫻井孝宏
リン/喬苓(チャオ・リン):古賀葵
(c) bilibili/BeDream
公式サイト: https://link-click.jp
公式Twitter:@linkclick_anime

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる