アカデミー賞有力候補となった『ドライブ・マイ・カー』を興収視点で考える

『ドライブ・マイ・カー』を興収視点で考える

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 先週末の動員ランキングは、2月5日(土)から入場者プレゼント第3弾の配布をスタートさせた『劇場版 呪術廻戦 0』が土日2日間で動員26万3000人、興収4億1900万円をあげて通算5週目の1位に。2月6日(日)までの累計で動員760万人、興収104億円を突破している。しかし、公開から43日間という短期間で興収100億円(数字はまだまだ伸びるだろう)を超えた作品にしては、過去の大ヒット作品と比べて、あまり社会現象化している感じがしないのはどうしてだろう?

 奇しくも、その1ヶ月前に公開された『ミラベルと魔法だらけの家』は、ディズニープラスでの配信がスタートした昨年末から今年にかけて日本以外の世界中で大ブームを巻き起こしていて、しかしそれはTikTokをはじめとする主にネット上での出来事だったりする。同じ大ヒット映画でも、劇場の中だけで起こっている現象と、劇場とはほとんど関係のない場所で起こっている現象。日本だけの「奇習」であるリピーターや段階的な集客のための「入場者プレゼント」ブーストと合わせて、この問題については改めてじっくり考察してみたい。

 さて、現在大きな話題となっているのは、2月8日に発表されたアカデミー賞で濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門にノミネートされたことだ。日本映画として史上初の作品賞へのノミネート(監督賞にノミネートされたのは黒澤明『乱』以来36年ぶり)ということで、国内が沸き立つのも当然だろう。そもそも、2018年度まで国際長編映画賞に「外国語映画賞」という名称を用いるなど、非英語作品にとって大きな壁があるアカデミー賞。これまで全編が外国語の作品で作品賞にノミネートされたのはジャン・ルノワールの『大いなる幻影』(1938年度)、コスタ=ガヴラスの『Z』(1969年度)、ヤン・トロエルの『移民者たち』(1972年度)、イングマール・ベルイマンの『叫びとささやき』(1973年度)、マッシモ・トロイージの『イル・ポスティーノ』(1995年度)、ロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』(1998年度)、アン・リーの『グリーン・デスティニー』(2000年度)、ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(2012年度)、アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』(2018年度)、そしてポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』(2019年度)の10作品。そして、外国語作品として史上初の最優秀作品賞を受賞したのが『パラサイト 半地下の家族』ということになる。

 つまり、もし『ドライブ・マイ・カー』が最優秀作品賞を受賞することがあったら、それは2年前に『パラサイト 半地下の家族』がこれまでのアカデミー賞の歴史をひっくり返した先の快挙ということになる。しかし、『パラサイト 半地下の家族』と『ドライブ・マイ・カー』の大きな違いは、前者がノミネートされた時点でアジア映画として前例がないような世界的ヒットを記録していたのに対し、後者があくまでも各国の都市部の主にアート系シアターでの上映作品でしかないことだ。

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