『妻、小学生になる。』に投影された、夢を見ながら現実を生きる“私たちのリアル”

『妻、小学生になる。』の現実を生きるリアル

 心地いい夢を見た朝「ああ、やっぱり夢だったか」と、その幸福感に浸るよりも、夢から覚めてしまった現実への寂しさが募ることがある。

 小学4年生の白石万理華(毎田暖乃)に生まれ変わった新島貴恵(石田ゆり子)にとって、夫の圭介(堤真一)と娘の麻衣(蒔田彩珠)の待つ“かつて”の家族・新島家と過ごす時間は、まさに夢の時間なのだろう。

 それが、万理華の“今”の家族である母・千嘉(吉田羊)との現実が寂しければなおのこと。このまま夢を見ていたい、でもそうはいかない現実がある。夢と現実の間で、分別のある大人の女性である貴恵の心と、まだ保護者を必要とする10歳の万理華の体は、よりアンバランスな形に私たちの目に映った。

 金曜ドラマ『妻、小学生になる。』(TBS系)第3話。第1話では亡くなった最愛の妻が帰ってきたという奇跡に圭介の喜びが爆発し、第2話ではこれまで叶わなかった10年分の家族の想いが深まり、他者からの視線は少々気になるものの新島家は幸せにあふれていた。このまま万理華が18歳になって圭介と正式に結婚し、また家族に戻れるのではないか。そんな夢を見て笑い合うほどに。

 だが第3話では、この生まれ変わりは10年前と同じことを繰り返すためのものではないことが暗示される。かつて3人で遊びに行った水族館に、再び足を運んだ新島家。デジャブのように対比される場面が見受けられたが、そのたびに10年前と今とまったく同じにはならなかった。

 うっかり者の圭介は以前と同じようにソフトクリームを買うが、もう売店に携帯電話を忘れることはない。それどころか、今度こそ3人でシャチショーを見るんだと、整理券情報を事前にチェックまでする用意周到さを見せる。

 しかし、またもや一緒にシャチショーを見ることはできなかった新島家。その理由は、圭介のお尻を叩く側だった貴恵こと万理華が迷子になってしまったからだった。同じように見えても、全然違う。それはこの家族の形そのもの。

 お互いの姿を探し回った挙げ句、口から飛び出す「もう一生会えないかと……」の言葉も、10年前とはその重みが異なる。なぜなら、3人は本当に会えなくなってしまった絶望を知っているから。そして、今こうして過ごしていることの奇跡がいつ消えてもおかしくないことを心のどこかで予感しているのだから。

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