『カムカムエヴリバディ』は桃山剣之介ありきの物語? 安子編とるい編の違いを振り返る

『カムカム』安子編とるい編の違いを振り返る

 三世代の女性たちが紡ぐ100年のファミリーストーリーを描いたNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。現在は舞台に京都に移し、今週から深津絵里演じる2代目ヒロイン・るいと大月錠一郎(オダギリジョー)の娘・ひなた(新津ちせ)が小学4年生となり、子育てとひなたの成長を描く物語となっている。ひなたが成長し、本格的に3代目ヒロインの川栄李奈にバトンタッチする前に、これまでの「るい編」と、初代ヒロイン・上白石萌音が演じた「安子編」の物語の違いを比較して、今後の行方を占ってみたい。

カムカムエヴリバディ

 結婚するまでの安子は、暖かい家族に囲まれ、初々しい初恋を描く心踊る青春劇だったが、それは悲劇を描くための幸せの前振りのようなもので、結婚してからは姑との関係、そして戦争という悲惨な時代背景があり、娘を一番に思い行動していた安子が、最後には娘に思いがが伝わらず捨てられるという悲劇のヒロインとして描かれた。ジャンルでいえば、朝ドラ史上最高のヒット作と呼ばれる1983年の『おしん』のように、社会や家庭の様々な逆境に耐えて、たくましく生きていくテッパンのヒロイン像だろう。ただ安子は、名家の嫁として姑以外からは大事に迎えられていて、物理的な辛さより、夫と実家の家族を亡くし、自分の居場所がない辛さが大きく、理由はどうであれ舅や義理の弟に反発し、安子はスタンドプレーで完全に空回りしていく。『おしん』ですら幸せに終わるのに、悲劇のままフェードアウトする姿が、愛に飢えつつ救いを頑固に拒否しているようにも見えた。ただそれは、心を開かない=余裕がないだけで、戦争が家族を壊し、安子だけでなくみんなが必死だったという時代背景が大きいだろう。単純に自分たちの家庭を普通に築きたいだけであり、なぜ平凡な暮らしができないのかという苦しさが伝わる安子の物語だった。

 幼少期のるいは、岡山市の商店街にある御菓子司「たちばな」の看板娘で、家族や従業員から愛される普通の女の子だった安子に対し、雉真家で何不自由なく祖父や叔父に愛されて育つ。だが、気を使って生きてきたことは想像でき、当然ながら父親を知らず、母親に裏切られたという心に傷を抱えていることなど、真逆の環境で育つ。だからこそ、るいは18歳で自立し、誰も自分を知らない大阪で暮らすことになる。「るい編」は、当初は安子を恨み、どこか性格が曲がった子に描かれるのかと思いきや、るいの大阪での生活は、2017年の『ひよっこ』のような、温かい人々と出会い、成長していく姿を描いた日常系朝ドラの趣で、お世話になるクリーニング店の竹村夫妻から愛情にあふれた家族の温かみを実感していく。様々な人たちとの出逢いが心の傷を癒し、まさに人情の世界で安子の人生と逆転していく。演技も含めて、働き者の性格や行動力、自分の意志は貫く頑固者でもあるところが安子とそっくりだからこそ、環境や出会いが違うことで、こうも人生が変わるのかという『if もしも』(フジテレビ系)的な物語の展開が楽しめた。

 違いが色濃く出たシーンというと、安子がるいのために雉真家に残ることを提案した時は母親に裏切りや捨てられる思いがあったが、錠一郎がるいをくださいと突然竹村夫妻に許しを貰おうとした際に、るいは恩義があるから簡単にそんなことできないと言うと、竹村夫妻は「そない、いつまでもおられても困る」と突き放すシーンだ。そんなことを言うのは誰が見ても竹村夫妻の優しさゆえ。もちろん全く状況や年齢が違うが、同じるいのために突き放すことでも、受ける印象は真逆だ。

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