The Wisely Brothers 真舘晴子の『ユンヒへ』評 映画自体に働く手紙のような作用

真舘晴子の『ユンヒへ』評

 最近、美術館で河原温というコンセプチュアル・アートのアーティストの作品に二度出会った。「I GOT UP」という絵葉書の作品。滞在先のさまざまな都市で、“I GOT AT 8.20 A.M.”というように、毎日彼が起床した時間をゴムハンコで絵葉書に印字し、国際郵便で特定の人物に送る。絵葉書は、どんな都市でも売られているような、その都市のお土産用の写真絵葉書だ。ゴムハンコの文字はフォントが機械的で人間味がないのだが、彼が過去にその都市で朝や昼に起床してポストに投函されたことが不思議な感じで伝わってくる。何を伝えたくて手紙を書くのだろう。人の書く文字に隠された秘密、それと活字やメールで使われる共通の文字にも込められる個性、技術の発展とともに増えていく私たちの気持ちを伝えるツールについて考える。

 小樽の雪の積もる風景に、『ユンヒへ』の物語の流れ方がぴったりとくる。見えないところでゆっくりとはじまっている雪解けの美しさは、手紙が持つ魔法のような気持ちにも似ているからだろうか? 今日も寒い夜が訪れる。それでも陽は長くなりはじめてきているのが分かる。遠くの誰かに思いを寄せて、いつかを想像していると、少しだけ春に近づいた気持ちになる。

おまけ:映画を見て選んだお気に入りの封筒と絵葉書。緑色のバラの封筒は、カンボジアの文具屋さんで購入したもの。

■公開情報
『ユンヒへ』
シネマート新宿ほかにて公開中
監督・脚本:イム・デヒョン
出演:キム・ヒエ、中村優子、キム・ソへ、ソン・ユビン、木野花、瀧内公美ほか
配給:トランスフォーマー
協力:loneliness books
2019年/韓国/シネスコ/カラー/105分/5.1ch/日本語字幕:根本理恵
(c)2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:transformer.co.jp/m/dearyunhee
公式Twitter:@dear_yunhee

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