The Wisely Brothers 真舘晴子の『WAVES/ウェイブス』評 “大切にする”とはどういうことか

真舘晴子の『WAVES/ウェイブス』評

 The Wisely BrothersのGt./Vo真舘晴子が最近観たお気に入りの映画を紹介する連載「考えごと映画館」。最近観たオススメ映画を、イラストや写真とともに紹介する。第2回は、『イット・カムズ・アット・ナイト』のトレイ・エドワード・シュルツ監督が手がけたA24製作の映画『WAVES/ウェイブス』をピックアップ。(編集部)

 久しぶりに海を見ていると、ぼーっとしてしまうと同時にふしぎな怖さを感じる。底は暗くて、奥深くには何があるかわからなくて、突然暗闇から何かが現れそうで。『WAVES/ウェイブス』を観た帰り道の電車の中、でも、地上だっておなじなのかもしれない、と思う。陸と、海と、地中と、空中と……私たちは一体どこにいるのが心地よいのだろう?

 『WAVES/ウェイブス』は、レスリング部選手の高校生 タイラーの話で始まる。厳しい父親のもと、日々練習に励むタイラー。学校には美しい彼女もいる。そんなある日、試合やトレーニングの負傷から自分はレスリングができない身体になっていると医師に伝えられ、混乱している中で、さらに追い討ちをかける話が出てくる。そして彼は自分の持つ力によって悲劇を生んでしまう。そして物語はまたひとつ違った角度で、彼らの光をさがしにいく。監督は、トレイ・エドワード・シュルツ。次々に新作を公開しているスタジオA24製作の作品だ。

 くるくると回るカットに目がまわりながら、流れるヒップホップのナンバー。めまぐるしい心の日々を思う。この日々のなか、何に喜んで、何にムッとして、1日を終えて眠りについているのか。私は自分の持つ力を、ちゃんとした方法で使えているのだろうか?と考える。

 音楽として一番多く登場するフランク・オーシャンの声は、昔よく家で聞いていたスティーヴィー・ワンダーのことも思い出させる。すこし懐かしい彼の歌の情緒。ジャンルでいうと自分はヒップホップやR&Bを頻繁に聞くわけではない。でも、この映画では彼らの曲が、気持ちを浮き上がらせる。

 何日か経って、フランク・オーシャンのアルバムを聴いてみる。有名なアルバム『Channel Orange』。歌詞を追いながら流れる英語を耳にする。彼は自分の気持ちを、彼の音の言葉で歌っていく。英語のニュアンスがもっと理解できたら、彼のことばの持つ温度がもっと分かるのだろう。身近なバンドサウンドとはまた異なる音の質感。声の高い部分にある何か、ミドルな音程にいるやさしさ、後ろに流れるトラックはなんだか寂しげだ。

 ことばたちの組み合わせを羨ましく思いながら、気持ちから置き換えられることばの種類は、それを大切に思う心の様々な角度から生まれるのかなと、ふと思う。さて、大切にするってどういうことだろう。この映画を観るとそんなことを考える。

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