The Wisely Brothers 真舘晴子の『眠る虫』評 洞窟をくぐり抜ける繊細な気持ち

 The Wisely BrothersのGt./Vo真舘晴子が最近観たお気に入りの映画を紹介する連載「考えごと映画館」。最近観たオススメ映画を、イラストや写真とともに紹介する。第3回は、MOOSIC LAB 2019の長編部門でグランプリに輝いた金子由里奈の長編初監督作『眠る虫』をピックアップ。(編集部)

 映画を観終わって、ため息をつくと、目の前に置いていた友人からのハガキがゆらりと動いた。メモをとろうとペンを手に取ると、それは最近失くしていたはずの青いドローイングペンだった。おや?と思う。

 『眠る虫』を観ていろんなことを思い出した。

 小さい頃、スーパーで失くした黄色い傘は、子供用だからか先っぽが丸っぽかった。家の中で行方不明になった カンガルーの親子のぬいぐるみ。 道ばたで、妖精を見た記憶。古びたヒゲがあって、大きなお腹のサンタクロースが、玄関にぴったりのサイズで入って来たという夢のような思い出。この記憶たちは何だろう。

 MOOSIC LAB 2020でグランプリをとったこの作品、監督は金子由里奈さん。主人公は、バンドをしている女性。日々生活の音を録音することを趣味に持っている。彼女がバスの中で見つけた、ふしぎな女性と彼女の歌を追いかけいくお話。この物語のストーリーで、洞窟をくぐり抜ける繊細な気持ちは、実際に感じてみてほしい。

 私は、日本のバスを、客観的に見てみたいという欲求がある。手すりがどれも濃いオレンジ色でできたバス、ソファ席の布地のなんとも言い表せられない模様のバス。色のコントラスト、質感。初めて乗った外国人は、どんな印象を持つだろう。エキセントリック? 最新の車体のバスが出発前に停まっているのを、興味深く見ている小学生の男の子は、車内にいる運転手に「乗りますか?」と声をかけられて、「新しいから見ているだけです!」と元気に答える。

 ここ数年でバスに乗ることが増えたからか、色んなことが気になるのだ。ジム・ジャームッシュの映画『パターソン』でもバスは重要な役割をもつ。なぜだろう、電車よりも個人的な空間に思えるのは。それぞれの動きや行動、見た目や持ち物のバリエーションが、身近に見えるのか、気になってしまう。この映画の中でもバスという乗り物が、何かをつなぐ重要な役割を果たしている。

 そして、この物語にはひとつのカセットが登場する。カセットというと、偶然だが丁度この夏に自分のバンドで製作していたのだ。ちゃんとしたスタジオレコーディングではなく、外で手持ちの録音機で音を入れ込んだ。カセットの持つ謎めいたパワーはあるのだと思う。カセットが登場する好きな映画もすぐ浮かんだ。ジャン=ジャック・ベネックス監督の『ディーバ』だ。『ディーバ』でのカセットの登場は、こんなふう。郵便配達人の主人公が、大好きなオペラ歌手のパリ公演に行きカセットに違法録音する。それを追う私服警察と、他の事件で大事な証言を録音したカセットを追う犯人たちが、なぜか混ざってしまい、郵便配達人が大変な目にあう。ただ、そのことをきっかけに郵便配達人はオペラ歌手と出会うことになる。そんな話だった。

 『眠る虫』でも、カセットを介して、すこし涼やかなふしぎな空気がながれる。現実と、いい意味でも悪い意味でも夢の中のような世界が重なる時、そこにはある種、足が浮いたようなこころになる時間があるのだ。バスの中で出会うおばあさんに着いていったあと、「おじいさん」に会い、「孫」に会う。 彼女が辿り着く景色には、ひとやものを生かす光がある。それは決して大きなことではなく、小さな光だ。多分、 私もあなたも、何かを生き返らせることができるんだなと感じる。同時にその逆もだ。

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