『明日ちゃんのセーラー服』から目が離せない 日常描写の驚くべき観察眼と再現性
思春期の淡い情感を表現しているTVアニメ作品『明日ちゃんのセーラー服』。本稿では本作のきめ細やかなアニメ表現について考えていきたい。
『明日ちゃんのセーラー服』は原作者の博により2016年から連載されている同名漫画を、テレビアニメ化した作品。主人公の中学1年生、明日小路が憧れのセーラー服に身を包み、中学校へ入学していくところから物語が始まる。
原作は漫画としては少し特殊な構成をしており、先の読めない物語を展開して読者の関心をひくというよりも、明日小路をはじめとした各キャラクターのなんてことのない日常を丁寧に細かく描き出している。例えば、原作1巻では小路がポニーテールを結うその仕草だけで4ページ、9コマ(通常の漫画のコマ割りとは若干異なる形ではあるものの)にわたって描写されている。
この原作をアニメ化するのはかなり難易度が高い。近年では日常系アニメと呼ばれるジャンルの作品も多く存在するが、それもギャグ描写が混じっていたり、キャラクターは等身を下げるなどのデフォルメがなされている作品も多い。しかし今作の場合はキャラクターの頭身や背景美術などを含めて、現実に即している表現を試みている。そしてアニメは日常的な動きであればあるほど、ほんの少しの誤差が視聴者に違和感として伝わってしまうため、日常的な動きの表現への高い観察眼と再現性が求められる。
そんな難易度の高い原作のアニメ化を果たした制作スタジオはCloverWorksだ。A-1 Picturesから分社される形で生まれたスタジオだが、年々存在感を増しているスタジオの1つだ。CloverWorksの最大の特徴はリアリティへの挑戦だろう。『ワンダーエッグ・プライオリティ』では実写ドラマ作品を多く手がける野島伸司を脚本に招くなど、実写的なアプローチを多く試みており、リアリティのある作画に定評のあった京都アニメーションに比肩するスタジオとなってきている。
リアリティへの挑戦は映像面でも同様であり、過去には『空の青さを知る人よ』や『冴えない彼女の育てかた Fine』でもアニメ的な快楽を伴いながらも、現実に存在する場所をモデルにキャラクターが違和感のない日常表現で動き回っていた。そして今作においてそれは一定の完成といっても良いほどまでに高められている。
例えば第1話を参考にしたい。初めて憧れのセーラー服を身に纏い、外を走り回る小路のあどけなさや幼さが同居したはつらつとした動作からは、こちらにも喜びが伝わってくる。その際にはしゃぎすぎて髪を口に咥えてしまうという演技を入れることによって、子供と大人の境目に入りつつある中学1年生の艶を描き出す。この細かい演技もまた、リアリティへの挑戦と言えるだろう。
そして上記の髪を結うシーンでは、丁寧にポニーテールを作り出す場面が描かれている。ここは今作のキャラクターデザイン、総作画監督を務める河野恵美の仕事の魅力だと推測する。河野は『THE IDOLM@STER』のダンスパートなど、多くのアニメ作品においてダンス作画やアクションシーンを担当している。特に女性のアクションに定評があり、髪の描き方に特徴が出やすいのだが、この場面でも日常的なアクションとして視聴者を圧倒している。