『カムカム』錠一郎はなぜトランペットを吹けなくなったのか 喪失感の先に見つけた光

錠一郎がトランペットを吹けなくなった理由

 先にも書いた通り、ジョーにとってのトランペットは自己実現のための道具ではなく、一種の“家族”だったから。戦争で両親を失い、飢えと大人たちへの不信感でささくれ立っていた心に救いをもたらしてくれた定一と音楽。ジョーにとって、トランペットに触れる時間は“家族”と過ごすひと時と同義だったのかもしれない。

 だが、今の彼には本当の“家族”ができた。母に捨てられ(たと思い)、その母に向けて「I hate you」と言葉を投げつけた心の傷と事故で額に傷を負ったるい。互いの傷を受け容れ、新たな場所で地に足をつけた生活をスタートさせたふたりの表情は貧乏でも明るく穏やかだ。

 ジョーがトランペットを吹けなくなり、大阪に帰ってきた当初、今後、このドラマで描かれるのは「大切な何かを喪失した人たちの物語」かと思っていた。が、それは少々違っていたようだ。本作『カムカムエヴリバディ』でフォーカスが当てられるのは「喪失後の人生」ではなく「新たな光の中で生きる人生」なのだろう。ジョーもあの海の中に「喪失感」を置いてきたから、新たな“家族”と自責のない優しい日々を過ごしている。

 そんな“家族”に新しい命が誕生する第14週。安子と稔が「On The Sunny Side Of the Street」を演奏するルイ・アームストロングから取り、るいと名付けた娘が、同じ曲で人生が開かれたジョーと家族になって次の命に「ひなた」と名前をつける。その子が彼女の祖父と祖母が心から願ったひなたの道を歩けるように。

 初めての育児であたふたとしながらも幸福そうなジョーの姿が目に浮かぶようである。あれから自転車はちゃんと乗りこなせるようになったのだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

 

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