リドリー・スコット作品で描かれてきた女性の生き様 心情変化を表す衣装を読み解く

リドリー・スコット作品の衣装を読み解く

過去への決別を表すファッション

 1991年公開の『テルマ&ルイーズ』にも心情とファッションの変化が見られる。支配的な夫のもとで自分の意見すらなかなか口にできなかった従順な専業主婦のテルマが、親友とのロードトリップ中に起きた事故をきっかけに過去の弱気だった自分と決別する。

 事故が起こる前のテルマは、ヒラヒラした淡い色のドレスを着用するが、腹を括ってからはジーンズにTシャツ、ダンガリーシャツなどを意識的に選んでいる。まるで、男性への依存のシンボル=スカート、自立のシンボル=ジーンズのようだ。ジーンズが、鉱夫のために擦り切れにくい作業着として誕生していることを考えると、独立や自立の象徴と捉えられていてもおかしくない。

 『テルマ&ルイーズ』の成功から6年経った1997年、リドリー・スコット監督は、当時官能的な役柄が多かったデミ・ムーアを主演に迎えた『G.I.ジェーン』を製作した。男女差別雇用撤廃法案の実験モデルとして、志願者の60%が脱落すると言われているアメリカ海軍特殊部隊の訓練に参加させられた女性大尉のストーリーだ。

 女性だからと内外から蔑視される彼女は、断髪して丸坊主にする。男性と同じ服装を身につけ、厳しい訓練に耐えながらも、女性だからという理由で馬鹿にされるのなら、女性らしさを少しでも自分から排除しようと考えたのだ。外見を変化させることで生まれる力は、他のキャラクターにも共通している。

服装から見る平等

 服装は平等の象徴にもなる。リドリー・スコット監督の不滅の名作といえば、1979年の『エイリアン』だろう。

 1970年〜1980年といえば、映画の女性は守られる側だった。『インディ・ジョーンズ』シリーズでは、女性も活躍するものの、最後は男性に助けられるケースが多く、『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』シリーズでも女性はサポート役になっている。2015年のGlamour Women of the Year Awardsでリース・ウィザースプーンが「どんな映画でも、女性キャラクターが男性に向かって『どうしたらいいのかしら』と言うが、緊急事態に自分が次に起こすべき行動を他人任せにする女はいない」と発言したほど、多くのハリウッド映画では女性は守られる側で男性は守る側として描かれてきた。

 しかし、『エイリアン』では、シガニー・ウィーバー演じるリプリーは守られる側ではない。彼女は、男性と同様の服を着て、化粧もしていない。男性キャストも同様で、過度に男性らしさを強調していない。あえて個人の心情を服装に反映させないことで、登場人物をニュートラルに見せていたと言えるだろう。

 リドリー・スコット監督は、早い段階から変化する女性のあり方や解放を描いてきた。そして、段階的な心情変化を視覚化させたのが、ファッションだったのだ。

 『ハウス・オブ・グッチ』は各キャラクターの衣装がとても個性的だ。パトリツィアに限らず、男性も独創的か、野心的か保守的かでスーツの着こなし方が違う。状況によって服装にかける思いも異なる。

 観賞後はグッチ銀座で1月31日まで開催されているアーカイブにも足を運んでみてほしい。劇中で使用されたオリジナルアイテムや小道具、レディー・ガガが実際に着用したアイテムも公開されているので、ファッションが持つストーリーテリングの力を直近で感じることができるだろう。

■公開情報
『ハウス・オブ・グッチ』
全国公開中
監督:リドリー・スコット 
出演:レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエックほか
脚本:ベッキー・ジョンストン、ロベルト・ベンティベーニャ
原作:サラ・ゲイ・フォーデン『ハウス・オブ・グッチ 上・下』(実川元子訳、ハヤカワ文庫、2021年12月刊行予定)
製作:リドリー・スコット、ジャンニーナ・スコット、ケヴィン・J・ウォルシュ、マーク・ハッファム
配給:東宝東和 
(c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED. 
公式サイト:house-of-gucci.jp
公式Twitter:@HouseOfGucci_JP
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公式Instagram:@universal_eiga

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