『カムカムエヴリバディ』は数々の“再演”が形作る るいを導く安子たちから受け継いだもの

数々の“再演”が形作る『カムカム』

 るいの愛読書であるO・ヘンリーの『善女のパン』に象徴されるように、安子がるいのために「良かれ」と思ってしてきたことがことごとく裏目に出てしまったのが「安子編」の終盤だった。しかし「るい編」が始まってから、時にはそれが善きほうへも作用するのだということが明らかになってくる。「たちばな」の矜恃と、亡き夫・稔の志を受け取り、安子がるいに授けた人としての美徳。そして「On the Sunny Side of the Street」。これらが、安子もるいも知らないところで、るいの幸せを呼び寄せるきっかけになる。「人間も物事も、必ずいくつかの側面を持っている」というテーマを描き続けてきたこのドラマの真骨頂といえるだろう。第11週「1962-1963」のラストシーンでは、ジョーがるいの額と心の傷ごと受け入れ、抱きしめて、「呪」が「祝」に変わる兆しも感じられた。

カムカムエヴリバディ

 子どものころ、岡山で定一(世良公則)が営むジャズ喫茶「Dippermouth Blues」でニアミスしていたジョーとるい。そうとは知らずにジョーがサマー・フェスティバルでるいに向けて演奏した「On the Sunny Side of the Street」は、ジョー自身にとっても特別な曲だった。安子から、るいの名付けの由来を聞いて鼓舞された定一が新しい一歩を踏み出すために歌ったこの曲は、戦災孤児のジョーをも「ひなたの道」へと連れ出した。るいにとってこの曲が一度は辛い記憶を呼び覚ます引き金になってしまったけれど、ジョーとの関係を育んで「大切な一曲」へと変わる。かつて稔と安子が交わし合ったのと同じ「いっしょに生きていきたい」という言葉で、ジョーはるいへの想いを打ち明けた。固く閉ざしたるいの心を、魂の片われのようなジョーが解きほぐしていく。るいは、初めて愛する人と出会ったことで自分自身と向き合い、やがては母・安子と向き合うことになっていきそうだ。

 「伏線回収」などという紋切り型の言葉では表現しきれない、こうした「人間の営みの反復」と「巡り巡るもの」が、「100年のファミリーストーリー」を形作っている。見えなくても「いる」登場人物たちが、るいを「幸せであれ」と見守っている。そして視聴者もいっしょに「祈りながら」見守っている。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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