『TOKYO MER』脚本家・黒岩勉の快進撃 少年漫画の爽快感をテレビドラマに移植?

 19世紀に発表されたアレクサンドル・デュマの小説を現代劇に脚色した『モンテ・クリスト伯 ー華麗なる復讐ー』(フジテレビ系)も、陰惨な描写が続く復讐劇だったが、振り切った描写が続くため不思議と嫌な気持ちにならない。

 『僕のヤバイ妻』も『モンテ・クリスト伯』も、登場人物が素早い判断で駆け引きを繰り返すうちに、独自のグルーヴ感が生まれる。

 このグルーヴ感は「物語の快楽」と言い換えることもできる。現代の作家は、物語を正面から語ることをためらいがちで、どうしてもツッコミ目線を入れて相対化してしまうことが多いのだが、黒岩は物語を語ることに対して迷いがない。だからこそ多くの視聴者に届く。

 そんな黒岩の集大成といえるのが、昨年放送された『TOKYO MER』だ。

 未曾有の災害、大規模な事件・事故、テロの脅威、未知なる感染症に対応するため、東京都知事・赤塚梓(石田ゆり子)が立ち上げた「TOKYO MER」は都知事直属の医療組織。
「死者を一人も出さない」を目標とし、最新の医療機器とオペ室を搭載したERカーで事故現場に直行し、現地で直接オペをおこなう。

 描かれるのは、極限状態の事故現場で重症患者を助けるための選択を数分単位で決断していく医師たちの姿。コロナ禍を踏まえた2021年ならではの医療ドラマとなっており、直接的な描写はないものの、医系技官、トリアージといった言葉が劇中で飛び交い、感染症への不安から医療従事者が差別されているという台詞も登場する。

 政治的背景も含め設定は複雑だが、チーフドクターの喜多見幸太(鈴木亮平)の行動原理が「とにかく人を助けたい」という純粋かつ単純明快なので、観ていてとても爽快感がある。

 設定や世界観は複雑だが、登場人物の行動原理は純粋でわかりやすい。これは黒岩が脚本として参加している『ONE PIECE』(集英社)とも共通する要素だ。

 つまり、黒岩勉は少年漫画の爽快感をテレビドラマに移植した脚本家なのだ。

※参考
1.【きょうの人】市川森一脚本賞を受賞した黒岩勉さん(43) ドラマは「スポーツ中継のように」産経ニュース
https://www.sankei.com/article/20170329-FQLAG64DLFML7E6ZPBODQOKN54/

■公開情報
『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』
2023年公開
出演:鈴木亮平、賀来賢人、中条あやみ、要潤、小手伸也、 佐野勇斗、佐藤栞里、フォンチー、佐藤寛太、菜々緒、鶴見辰吾、橋本さとし、渡辺真起子、仲里依紗、石田ゆり子
脚本:黒岩勉
監督:松木彩
企画プロデュース:高橋正尚
プロデューサー:八木亜未、辻本珠子
製作:TBS
(c)TBS
ドラマ公式サイト:https://www.tbs.co.jp/TokyoMER_tbs/
公式Twitter:@tokyo_mer_tbs
公式Instagram:tokyo_mer_tbs

■配信情報
日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』
Paravi、ディズニープラスほかにて配信中
出演:鈴木亮平、賀来賢人、中条あやみ、要潤、小手伸也、 佐野勇斗、佐藤栞里、フォンチー、佐藤寛太、菜々緒、鶴見辰吾、橋本さとし、渡辺真起子、仲里依紗、石田ゆり子
脚本:黒岩勉
プロデューサー:武藤淳、渡辺良介、八木亜未
演出:松木彩、平野俊一
製作:TBS
(c)2021 Disney and its related entities. (c)TBS
番組公式サイト:https://www.tbs.co.jp/TokyoMER_tbs/
ディズニープラス公式サイト:disneyplus.jp

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