ベネディクト・カンバーバッチの土台は“天才役”? 体現するドクター・ストレンジの変化

天才役を演じてきたB・カンバーバッチ

 マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)27作目であり、『スパイダーマン』シリーズの最終章『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が公開中だ。本作で主人公ピーター・パーカー/スパイダーマンとともに重要な役割を担っているのが、魔術師ドクター・ストレンジことスティーヴン・ストレンジ。そんなストレンジを演じるベネディクト・カンバーバッチは、現在Netflixで配信中のジェーン・カンピオン監督作『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でも熱い注目を浴びている。今後のショーレースに期待がかかる彼のこれまでのキャリア、そしてその進化を分析していこう。

俳優の両親のもとに生まれ、シャーロック・ホームズ役でブレイク

 ベネディクト・カンバーバッチは1976年7月19日に、イギリス・ロンドンで生まれた。両親はともに俳優で、カンバーバッチは名門パブリック・スクール、ハーロー校在学中に演劇を始める。大学進学前には1年間のギャップイヤーをとり、チベットの僧院で英語を教えていたという。なんともポッシュな経歴ではないか。その後、マンチェスター大学で本格的に演劇を学びはじめた彼は、卒業後もロンドン音楽芸術学院で引きつづき演劇に向き合う。父ティモシー・カールトンは当初、ショービジネスの厳しさを知る者として、息子が同じ世界に足を踏み入れることを止めようとしていたそうだ。しかし大学時代の彼の舞台を観たとき、息子は自分よりも偉大な俳優になると確信したという。そしてそれは、決して親の贔屓目ではなかった。

 カンバーバッチは、2001年に舞台『ヘッダ・ガブラー』でローレンス・オリヴィエ賞助演部門にノミネートされるなど、着実にキャリアを重ねていく。2004年には、テレビ映画『ホーキング』で物理学者スティーヴン・ホーキングを演じた。日に日に身体の自由がきかなくなる苦悩と、当時主流だった「定常宇宙論」を覆すまでの情熱、そして最初の妻ジェーンとのロマンスをバランスよく、細やかに演じたカンバーバッチ。この役は、のちに彼のイメージの土台となる最初の“天才役”だったのではないだろうか。

『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』(C)2015 Hartswood Films Ltd. A Hartswood Films production for BBC Wales co-produced by Masterpiece. Distributed by BBC Worldwide Ltd

 そして2010年、BBCのテレビシリーズ『SHERLOCK/シャーロック』で、彼は世界的なブレイクを果たす。カンバーバッチが演じた現代のロンドンに生きるシャーロック・ホームズは、“天才”であるがゆえに嫌味なやつで、その頭脳は事件の推理をするためにあり、人付き合いは苦手だ。しかしストーリーがすすむにつれ彼は相棒のジョン・ワトソンと友情を築き、感情豊かに、そして周囲の人々に対して優しさを覗かせるようになっていく。カンバーバッチは、この微妙な変化をシリーズを通して表現し、魅力的で新しいシャーロック像を作り上げた。

 彼は単に印象的な役で人気を獲得しただけでなく、その演技力も評価されたのだ。2011年に出演した『戦火の馬』の監督スティーヴン・スピルバーグは、『SHERLOCK』を観て彼の起用を決め、映画での演技も絶賛している。その後『ホビット』シリーズや『スター・トレック イントゥ・ダークネス』、『それでも夜は明ける』など、巨大フランチャイズやハリウッド大作、注目度の高い社会派映画など、幅広い作品に出演したカンバーバッチは、ついに2014年の『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でアカデミー賞主演男優賞へのノミネートを果たす。この作品で彼が演じたのは、ナチスの暗号解読に挑んだ実在の数学者アラン・チューリングだ。やはり彼には、すこし浮世離れした“天才役”が似合う。戦時下で母国イギリスに貢献しながらも、同性愛者だったために悲劇的な後半生を送ったチューリング。その悲痛さをありありと見せつけたカンバーバッチの演技には、胸がしめつけられる。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でアカデミー賞有力候補に

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』Netflixにて独占配信中

 そんな彼は、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で新たな顔を見せた。このジェーン・カンピオン監督最新作で、カンバーバッチは粗野で横暴な農場主を演じている。彼が演じるフィル・バーバンクは生粋のカウボーイ然とした人物で、マッチョな思想の持ち主。彼は弟が結婚した未亡人とその息子が気に入らず、嫌がらせをする。これまで本人同様ポッシュで上品な雰囲気をまとった役が多かったカンバーバッチだが、本作で見せる演技はそのイメージとは真逆だ。フィルは風呂に入らず川で水浴びをするだけで、いつもきつい体臭を漂わせている。その臭いは彼の周囲から人々を遠ざけ、孤独と哀愁をあふれさせるのだ。映像だけで臭いも感じられるような気がするのだが、実際にカンバーバッチは撮影中、数週間入浴をしなかったという。そんなふうに過剰なほど“男らしさ”にこだわるフィルは、未亡人の息子ピーターとの交流によって変わっていく。粗野だった男の繊細な素顔と秘密が少しずつ暴かれていく過程を、カンバーバッチは完璧に演じきった。映画の序盤と終盤では、フィルの表情は別人かと思うほどに違うのだ。さまざまなことがはっきりとは語られない本作で、カンバーバッチ演じるフィルの言動に息を呑むシーンは多い。これは彼の「キャリア最高の演技」と絶賛され、アカデミー賞有力候補との呼び声も高まっている。



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