オダギリジョーからにじみ出る唯一無二の“愛おしさ” 『カムカム』ジョーも当たり役に
極力人との間にさざ波を立てず、相手に立ち入りすぎず、立ち入らせすぎず生きてきただろう2代目ヒロイン・るい(深津絵里)の心に気になる取っ掛かりを残す存在が現れた。
るいが住み込みで働くことになった竹村クリーニングの常連客で、大量の洗濯物を持ち込み、その中にいつも同じ位置にケチャップ跡のついたシャツが紛れ込んでいる“謎の男”(オダギリジョー)だ。彼の正体がわかったところで2021年の放送を終えた『カムカムエヴリバディ』(NHK総合、以後『カムカム』)。
洗濯物からその人の暮らしぶりを想像するのを日課としていたるいにとって、初めて全くその生活が見えず、本来は名前を入れるべきシャツの襟元に思わず“宇宙人”と縫い付けてしまったその男はジャズトランペッターのジョーこと大月錠一郎だった。一瞬映ったトランペットの演奏姿も素敵だ。
オダギリジョーは本作が朝ドラ初出演。脚本家・藤本有紀から直々に出演オファーがあったようだ。
本作での役どころ同様に、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)で演じた小鳥遊役もプライベートではどこか抜けたところがあり、飄々としていてマイペース、全く素性がわからないながら、仕事の場面では180度異なる顔を見せ、主人公・とわ子(松たか子)の前に現れる。しかも、この相反する2つの顔を矛盾なく共存させ見せられ、とんでもないギャップに意表を突かれた視聴者も少なくなかっただろう。
映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の一浩役もそうだが、人間の情けなさ、弱さ、どうしようもなさと、それがためのどこか憎めなさや、放ってはおけずなんだかんだ許されてしまう愛嬌、人間臭さをひっくるめて見せてくれるため、彼の存在が作品に強烈な愛おしさを添える。オダギリジョーは役柄を通して、どこか上手には生きられない人たちにそっと居場所を与え、歪なものの愛し方や楽しみ方を教え続けてくれている俳優だと思える。