『カムカム』はドラマ版『ファミリーヒストリー』? 底流にある日米の文化の相克

『カムカム』は『ファミリーヒストリー』?

 現在放送中の『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)。3世代のヒロインを描く本作は、ドラマ版の『ファミリーヒストリー』(NHK総合)だ。ラジオ放送の開始と同時に産声を上げた橘安子(上白石萌音)は、夫・稔(松村北斗)と死別しながらも娘のるい(成長後は深津絵里)を育て、母娘それぞれの道を歩んでいく。戦前から戦後へ、時代を超えて母と娘の間にバトンが渡される様子は、大河の流れを見ているような感慨を抱かせる。

 物語は3部構成で進む。はじまりの舞台は岡山。ラジオを囲んで幸せな家族の原風景が映し出される。ラジオ英語講座が縁となって安子は雉真稔と結ばれ、るいを出産する。戦争が終わり、稔を失った喪失感の中、ラジオの「カムカム英語」とるいの成長を心の支えに安子は生き抜いていく。そんな時、出会ったのが進駐軍の将校ロバート・ローズウッド(村雨辰剛)。戦争によって妻をなくしたロバートと安子の間には、国籍や人種を超えた絆が生まれる。事故で負わせてしまったるいの傷や雉真家との確執、実の兄・算太(濱田岳)の度重なる失踪など不運な出来事が重なった末に、安子はるいの元を離れてアメリカへ渡る。ここまでが安子編だ。

 ドラマチックなストーリーを演出するのは、ラジオやおはぎなど身近な品々。最重要アイテムであるラジオは、安子やるいが新しい世界に触れるきっかけを運んでくる。電波が国境を超えるようにラジオは登場人物をつなぐ役割を担っており、物語の横軸と言っていいだろう。一方のおはぎは、祖父の杵太郎(大和田伸也)から父・金太(甲本雅裕)、そして安子に受け継がれてきた家族の味。変わることのない味覚は記憶の継承という縦軸を象徴している。ラジオを中心とする相関図と家族の記憶は、本作がファミリーヒストリーたるゆえんである。

 ラジオやおはぎが意味するのは人間関係や時間軸だけではない。劇中で鋭く対立し、緊張状態に置かれているのが日本とアメリカ双方の文化だ。ジャズ、英語、チャップリン、野球、ラジオなど、海の向こうからやってきた舶来文化は、足袋、あんこ、時代劇など日本由来の文物と対比される。戦時下で野球用語が日本語になったことや、喫茶店「Dippermouth Blues」のマスター柳沢(世良公則)が進駐軍のためにジャズバンドを集める際のエピソードは、戦争によって引き裂かれた2つの文化を端的に示すものである。

 日米の対立は社会制度や個人の生き方にも及んでいる。戦後、新憲法によって個人の尊重が叫ばれるようになっても、家制度は根強く残っていた。和菓子職人の家業とダンサーという夢の間で揺れていた算太は、「たちばな」を立て直そうとして挫折する。算太の姿は、新憲法に対する既存制度からの揺り戻しと不可逆的な時代の変化を反映していた。算太の再失踪の引き金となったのが零落した良家の子女である雪衣(岡田結実)だったことは示唆的だ。一方の雉真家では稔が戦死し、次男の勇(村上虹郎)が家を継ぐ。“2番バッター”の勇は家制度の代行者となり、野球の試合で進駐軍に勝って兄の“かたき討ち”を果たす。日本人の誇りを持つ勇のメンタリティは、国境を超えて自由な世界を夢見る稔と対極的で、稔に魅かれた安子が勇に対して幼なじみ以上の感情を持てなかったのもある意味で当然だった。

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