『ちりとてちん』はSNS考察を楽しむドラマのはしり? 『カムカム』との共通項も

 『ちりとてちん』のもう一つの大きな魅力は、凝りに凝った構成と緻密にはりめぐらされた伏線だった。放送当時、ソーシャルネットワークサービス「mixi」でファンが1話ごとに考察を繰り広げていたのをよく覚えている。『ちりとてちん』はファンがSNSで考察を楽しむドラマのはしりだったように思う。

 まず、落語を大きなテーマにしているため、「愛宕山」「次の御用日」「崇徳院」「ちりとてちん」「たちぎれ線香」などの落語がエピソードの中に登場するが、それぞれの内容がストーリーと重ね合わさっている。特に、ドジばかりの幇間が旦那や芸妓たちとピクニックをする賑やかな演目「愛宕山」は、喜代美が落語を好きになるきっかけになっているとともに、祖父を亡くして落ち込む喜代美が立ち直るきっかけとなったり、喜代美と草若の出会いを導いたりと、物語全体の鍵になっていた。妻を亡くしてから高座に上がれなくなった草若が、3年ぶりに開かれた徒然亭一門の落語会で突然高座に上がり、泣きじゃくる弟子たちの前で「愛宕山」をかけるシーンはNHKの企画サイト「朝ドラ100」の「思い出の名シーンランキング」で堂々1位になっている。

 落語の演目がストーリーと重なったり、演目を主人公たちが扮装して再現するのは、宮藤官九郎脚本の『タイガー&ドラゴン』(2005年/TBS系)と同じ。ルーツは大衆演劇の演目を取り入れた市川森一脚本の『淋しいのはお前だけじゃない』(1982年/TBS系)である。

 伏線の張り方と回収も実にきめ細かく、例を挙げようとすると膨大になる。大きな伏線回収の例を二つ紹介しよう。

 『ちりとてちん』は「伝統を継ぐこと」が大きなテーマになっていた。正太郎が大切にしていて、喜代美が繰り返し聞いていた「愛宕山」の落語のテープが、実は草若から直接もらっていたものだと判明する。これは一度、家を出ていた喜代美の父・正典(松重豊)が塗箸職人の後継ぎになると決心した日に行われた落語会で、記念としてもらったものだった。そのときの楽屋には草若の息子、小草若もいた。二組の伝統を継ぐものたちの運命が重なっていたのだ。

 最大の伏線回収は、家族のために生きる専業主婦の糸子を見て「お母ちゃんみたいになりたくない!」と故郷を飛び出した喜代美が、最終週で母親になることを選んで「私、お母ちゃんみたいになりたい」というものだろう。糸子が喜代美を生んだときは、夫の正典が糸子の大好きな五木ひろしの「ふるさと」を歌ってくれていたが、喜代美が出産するときは、夫の草々が亡き師匠の「愛宕山」を語っていた。ひとつの曲(演目)をリフレインさせながら主題を語っていく手法は『カムカムエヴリバディ』での「On The Sunny Side Of The Street」と通じている。五木ひろし(本人)の起用法も大変粋なものだった。

 朝ドラ史に残る傑作の一つである『ちりとてちん』。配信も行われているので、未見の方は『カムカムエヴリバディ』を完走したらぜひ観てもらいたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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