“大阪弁”から紐解く大阪朝ドラの魅力 『カーネーション』から『おちょやん』まで

“大阪弁”から紐解く大阪朝ドラの魅力

 NHK連続テレビ小説こと朝ドラを観るとき、思わず方言に聞き入ってしまう視聴者は少なくないだろう。朝ドラはNHK東京とNHK大阪によって交互に制作されている。それもあって、頻出度が高いのは「大阪弁」。時計代わりに朝ドラを観る中で、住んでいる地域に関わらず、大阪弁に馴染みを感じてきた……という人もいるのではないだろうか。

 一口に「大阪弁」といっても、いろいろある。北部や南部、中心部など、その物語の舞台によって使用される大阪弁の種類は違う。登場人物の方言を観察してみると、その人柄やキャラクターに大きな影響を与えていることに気づく。

『おちょやん』千代の気丈な性格を表す河内弁

 例えば、現在放送中の『おちょやん』。主人公の竹井千代(毎田暖乃/杉咲花)は、9歳まで大阪府の南東部にあり、中心地からやや離れている南河内で過ごした。この地域で話されるのは、大阪弁の中でも「河内弁」にあたる。河内弁は標準的な大阪の言葉に比べて、少々荒っぽい。「なあ」と呼びかける言葉を「やぃ」。「あんた」「お前」を「われ」。「いい加減にしろ」を「いい加減にさらせ」。「本当か?」を「ほんまけ?」。人と人との垣根を感じない独特のニュアンスが特徴的だ。

 また河内弁では「できひん」を「できいん」と言ったり、少々呂律の回っていないように聞こえる言葉が多い。千代の父親・テルヲ(トータス松本)も河内弁を話していたが、「これはこの言葉なのか、それとも酔っ払っているからこう聞こえるのか」と感じる場面が多かったように思う。

 子役時代を演じた毎田暖乃は巧みに河内弁を話し、千代の「気丈で口達者」なキャラを形づくることになった。「おんどりゃー!」と強く叫ぶシーンに強烈な印象を抱いた視聴者も多いだろう。

 役者が杉咲花にバトンタッチした今、南河内を出たこともあり河内弁は減った。しかし千代が思わず感情を吐き出したりするシーンにはやはりこの言葉が使われる。リアルの世界でも、上京すれば標準語に染まるが帰省すれば方言が戻る……という人が多いのと同じ。河内弁は千代のアイデンティティを示す重要なアイテムなのだ。

『カーネーション』糸子のたくましさと泉州弁

 南河内と同じく中心部から離れており、大阪の南部にある岸和田を舞台していたのは『カーネーション』だ。主人公は、尾野真千子が演じる小原糸子。町の商店街の呉服屋で育ち、岸和田名物の「だんじり祭り」を愛し、ミシンに出会い「これがうちのだんじりや」と洋裁の道に進んだ。

 糸子はたくましい。「女性の自立」が一つのテーマに据えられているため、性別以前に人として自立しているし、「女傑」というにふさわしい。20歳で父親・善作(小林薫)が営む呉服屋を譲り受ける(のっとる)形で洋裁屋を開くまでの父との戦いは見事で、父が亡くなり夫・勝(駿河太郎)が戦死した後も一家を支えた。これまでの朝ドラヒロインにはない清々しさがあり、そうした「糸子カラー」を練り上げた要素の一つが、やはり言葉だった。

 使用されている言葉は、「泉州弁」。「寝なさい」を「寝り」、「〜している」を「〜しちょーる」。「〜だから」を「〜よって」。「お昼にしようか」を「お昼にしようけ」。主に語尾がひねられていて特徴的だ。河内弁と同じで、ざっくばらんなコミュニケーションが取りやすい。さっぱりとしている糸子にぴったりだ。

 それに加え、糸子が過ごした主な場所が商店街だったというのもポイントだ。ドラマチックな物語を彩ったのは、そばにいる商店街の人々との交流だった。糸子がいきいきと洋裁に励み、洋装店を切り盛りすることができたのは、家族や地元の人々の支えがあったからこそ。泉州弁を話す彼らのキャラの濃さは、物語とともにある地元ネットワークに存在感を与えた。

 尾野真千子編の最終日、60歳になった糸子は昔ながらの人々を想い「うちは宝抱えて生きていくよって」と語った。泉州弁が飛び交うこの町で糸子が得たものは、すべて「宝」なのだ。

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