村上虹郎、映画ファンの心を鷲掴みに カリスマ性と経験値を武器にした2021年の飛躍
コロナ禍によって、不安定な日々が続く世の中。いまだエンターテインメント業界も楽観視できない状況にあるが、それでも、映画、ドラマ、演劇にと、この2021年も多くの俳優から大きな感動を与えてもらった。特に印象に残っているのが、村上虹郎である。今年の村上の活躍に胸を熱くさせ、心を鷲掴みにされた映画ファンは筆者だけではないだろう。
村上虹郎に胸を熱くさせられた理由ーーこれはもちろん、『孤狼の血 LEVEL2』における好演があったからだ。筆者は客席で、彼の演じる通称“チンタ”こと近田幸太が少しでも幸せになれるよう、手を合わせて祈りながらスクリーンを見上げていたものである。主演の松坂桃李や、「これぞ怪演」といえる演技を披露した鈴木亮平らに並び、本作は村上にとっても代表作の一つになったのではないだろうか。
念のために述べておくと、本作『孤狼の血 LEVEL2』は、2018年に公開され大反響を呼んだ『孤狼の血』の続編である。前作もオールスターキャストによる作品だったが、今作でも「続編」に相応しい面々を新たに迎え、痛快さと悍ましさが入り混じる物語を繰り広げた。村上演じるチンタは、広島の街の平和のため、警察と裏社会のタイトロープを続ける一匹狼の刑事・日岡(松坂桃李)を兄のように慕う愛らしい存在。チンタは“とある報酬”と引き換えに、危険な連中が集まる上林組に日岡の指示で、スパイとして潜り込む。しかしチンタとは、警察でもヤクザでもない。ただ小さな幸せを夢見るがために犯罪の片棒を担いでしまう、純朴な青年なのだ。筆者は正直なところ、チンタに肩入れするあまり、本作の主人公は彼なのだと捉えながら鑑賞した。何者でもない青年が、自身のアイデンティティの獲得のために奮闘する。死を覚悟して、奮闘する。村上虹郎という俳優の全身から放たれる気迫と悲哀とに、安全な観客席にいながら激しくエネルギーを消耗した。彼はこの作品内でチンタの成長とともに、俳優としても著しい成長を果たしたのではないだろうか。
そんな村上は、生まれ持ったものか、キャリアを重ねる過程で身につけたのか、類稀なカリスマ性を備えた俳優だと思う。そうでありながら、何者でもないチンタのような若者役や、現在放送中の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)での勇のような素朴な若者の役にも違和感なく適応することができるのが、彼が優れた俳優の証である。そしてまた、物語がチンタにフォーカスし、まさに彼が“自分の人生の主役”として立つ姿には、このカリスマ性が活きていたように思う。