『青天を衝け』泉澤祐希「僕“も”逃げたい!」の圧倒的な演技 栄一を救う慶喜の眼差しも
大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)もいよいよ残り3回。12月10日の『あさイチ』(NHK総合)に脚本の大森美香が出演。12月14日にも主演の吉沢亮が生出演と、最終回に向けてのムードが一層高まってきている。
第39回「栄一と戦争」では、そのタイトルが示すように、明治の終わりに日露戦争が勃発。東郷平八郎が率いる連合艦隊がロシアのバルチック艦隊を撃破。アメリカのルーズベルト大統領(ガイタノ・トタロ)の仲介により、小村寿太郎外相(半海一晃)がロシアとのポーツマス条約に調印、といった流れが、緊迫したムードの中で生々しく描かれていく。
そんな折、栄一(吉沢亮)はインフルエンザにかかり倒れてしまう。肺壊疽を起こし、兼子(大島優子)が医師からそっと命の危険を告げられるほどだ。当然、栄一も自身の死を覚悟していた。呼ばれたのは第一国立銀行行員の佐々木勇之助(長村航希)と息子の篤二(泉澤祐希)。勤勉な仕事ぶりを認めていた栄一は後任の頭取に佐々木を指名。そして、渋沢家は篤二へと託されることとなる。
朦朧とする意識の中、栄一が伸ばしたその手を篤二は拒絶しようとしていた。恐怖という感情の方が近いかもしれない。家業を手伝うようになった篤二は慶喜(草なぎ剛)から「一人前の実業家だ」と言われるくらいの跡取り息子に成長していたが、心の奥底には偉大なる父親からのプレッシャーが蓄積していた。父の危篤により、その重責は篤二の身体へと現実として一気に押し寄せる。現実逃避をするかのように邸宅を飛び出す篤二。「篤二さんが継ぐんだろうが……」「篤二さんかぁ……」という書生からの陰口が篤二をさらに追い詰める。
降りしきる雨の中、我に返った篤二は不敵な笑みを浮かべ、「うわぁー! なにをやっているんだ!」と地面を叩く。これまで感情を表に出さず、口数の少なかった篤二へのプレッシャーが限界を迎えた瞬間。そして、ここからが演じる泉澤祐希の凄みを感じさせる芝居だった。騒ぎにかけつける兼子と慶喜。「僕も逃げたい……僕も逃げたい!」──それは慶喜を見て思わず口走った本音からの叫び声。「僕“も”」というのは、かつて慶喜が鳥羽・伏見の戦いで敵前逃亡を選んだことを指している。慶喜が背負っていたのは日本で、篤二が背負おうとしているのは渋沢家。そうやって篤二は自身を肯定しようとするが、再び自責の念が篤二を襲う。思いがけぬ形で過去の傷口をえぐられた慶喜だったが、篤二に返す言葉はなにもなかった。