『調査官ク・ギョンイ』『怪物』など、秀逸な脚本を味わい尽くせる韓国サスペンス3選

先の読めない展開にハマる韓国サスペンス3選

 最近盛り上がっている『恋慕』『海街チャチャチャ』などのロマンスドラマと同様に近年韓国で大きな注目を集めているのが、サスペンス、ミステリージャンルのドラマだ。毎クールに何作も製作される人気ジャンルだが、2021年は特に傑作サスペンスが続々誕生したように思う。韓国ドラマの醍醐味である秀逸な脚本を骨の髄まで味わい尽くせる韓国サスペンス3作を紹介したい。

『調査官ク・ギョンイ』

 韓国で最近じわじわと人気を集め、『イカゲーム』『マイネーム:偽りと復讐』といったNetflixオリジナルコンテンツを抜き、11月9日には韓国のNetflix視聴ランキングで1位を獲得した作品が『調査官ク・ギョンイ』である。本国の番組掲示板には「これまでになかった斬新な作品」などと高評価が寄せられている。

 部屋の隅でゲームと酒をこよなく愛する元警察官のク・ギョンイ(イ・ヨンエ)の元に、かつての仲間であるNT生命のナ・ジェヒ(クァク・ソニョン)チーム長が持ってきたのは、35歳のキム・ミンギュ(キム・ガンヒョン)が散歩中に消え、崖で足を踏み外して死亡したと推定された統営失踪事件。保険金はなんと12億ウォン(約1億1650万円)で、単純な保険詐欺事件だと思われたが、行方不明の保険加入者を調査していくと、彼が働いていた工場で人が次々と死んでいたことを知る。ク・ギョンイは、「これは緻密に設計された殺人事件なのではないか?」と疑い始め、殺人者を追う彼女の奇想天外な探偵劇が始まる。

 不朽の名作『宮廷女官チャングムの誓い』の国民的女優イ・ヨンエの4年ぶりのドラマ復帰とあって注目を集めた本作。第1話冒頭から“優雅さの代名詞”と謳われる大女優が、ボサボサの髪にハエを纏い、食べ物を貪る姿に驚きを隠せないが、その凄まじいギャップと彼女の表現力の高さに驚いている暇はない。次々と物語がスピーディに展開していき、第1話が終わる頃には「何これ!?」︎「どういうこと!?」と前のめりになってしまう。

 連続殺人鬼のケイ(キム・ヘジュン)の正体が序盤に明らかになるということも、視聴者の予想を華麗に裏切ってくる。美しきサイコパス殺人鬼と、悩み多き英国諜報員とのスリリングな攻防を描いた『キリング・イヴ/Killing Eve』のように、追う女と追われる女の熾烈な対決を中心軸にストーリーは進んでいくが、そこにはまた多くの裏切りが隠される。

 本作が「斬新な作品」と視聴者から太鼓判を押されているのは、犯人が誰か推理し、捕まえるという典型的な型にはまらず、ドラマの物語や展開方式、キャラクターに至るまで固定観念を揺さぶる果敢な挑戦をしているからだろう。イ・ジョンフム監督が「『こうするだろう』と思った瞬間に違う行動をするようなストーリーで、初めて見た時は当惑するかもしれない」(引用:イ・ヨンエ、4年ぶりのドラマ復帰作「調査官ク・ギョンイ」の見どころ明かす“独特で変わった作品”(総合) - Kstyle)と語っている通り、12話編成の本作は折り返し地点を過ぎたが、物語がどこに向かい、終着するのかの前に、どの方向に舵を切るのかすら予測がつかない。ク・ギョンイは心の奥深いところでは人間を嫌悪しているが、一方で人を守るために苦しむ人物でもある。正義のための探偵のように見え、実は被害者の命を救うよりも犯人を捕まえるのが重要で、まるでゲームをしているかのようにも見える。これはク・ギョンイに限らず、全ての登場人物が複雑で多層的なキャラクターなのが興味深い。視聴者の中で今、もっぱら話題なのは、ギョンイのゲーム仲間であり、調査の助手を務めている無口な相棒「サンタ」の存在である。「彼は味方なのか?」「どんな秘密を抱えているのか?」視聴者の中でさまざまな憶測が飛び交い、彼がこれから物語の大きな鍵になっていきそうだ。

 殺人事件という重い題材を扱っているにもかかわらず、常にふわふわとした軽快さをまとい、「死」を通じて“何が正義か”というメッセージを投げつつも、漫画のようなコミカルな演出で笑いを誘ったりもする。この作品の妙な異質感は、好き嫌いは別れるだろうが、無数のマニア層を生み出していることは間違いないだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「海外ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる