『調査官ク・ギョンイ』『怪物』など、秀逸な脚本を味わい尽くせる韓国サスペンス3選

先の読めない展開にハマる韓国サスペンス3選

『秘密の森』

 韓国ドラマの魅力的な要素に秀逸な脚本が挙げられるが、その最高峰に君臨しているのが『秘密の森』だ。脚本家イ・スヨンのデビュー作にもかかわらず、最後まで緊張感を失わない緻密な脚本が高く評価され「第54回百想芸術大賞」でテレビ部門大賞を含む三冠に輝いた本作。感情を感じることができない孤独な検事ファン・シモク(チョ・スンウ)が、正義感溢れる暖かい刑事ハン・ヨジン(ペ・ドゥナ)とともに、検察内部の不正から始まった殺人事件とその裏に隠された真実を明かしていく秘密追跡劇が描かれる。続くシーズン2は、捜査権を巡る警察と検察の対立を中心に、さまざまな事件が絡み合い、1よりさらに深く政治と暴力、隠蔽と歪曲について物語が続いていく。

 一貫しているのは、「誰も信じられない」という雰囲気だ。シモクは感情に邪魔されない。なにがあっても動揺せず、相手を黙々と見つめ、冷静な判断力で事件を見つめていく。そのおかげでストーリーの進行に明快さを感じる。スピーディーな展開と質感のあるストーリーで高い没入感を与えてくれるだけでなく、その緊張感が最後の瞬間まで持続するのが本作の凄みだ。黒幕の後ろに隠された陰謀は、シモクの明快な推理を嘲笑するようにねじれていく。彼が新たな事実を明らかにする度、まるで森の中を彷徨うかのように、事件はますます迷宮の中に陥るのだ。

 本作が、感情を一切排除した冷徹で難解な犯罪スリラーものかというと、そうではない。ヨジンや仲間たちによって「人の温かさ」もしっかりと描かれ、人間臭さが漂っているのもポイントだ。シモクのブレない真の強さに痺れるとともに、その対比でヨジンの人間らしさにグッと心を掴まれる。劇を温かく包み込むようなペ・ドゥナの演技が相互作用を生み出し、ドラマをさらに輝かせていた。最後はこわばっていた顔の緊張が解かれ、シモクとともにふっと笑みがこぼれてしまう。

 チョ・スンウとペ・ドゥナという韓国を代表する演技派二人の豪華タッグを、ドラマで(しかも2シーズンも)観ることができるだけで、レベチな幸福感で満たされる。一場面でも観ていないと一瞬で置いていかれるため、ながら見は厳禁だし、1話観る度に緊張感でどっと疲れるが、からまっていた糸がひとつずつ解かれ、一つの真実に繋がっていく感動は忘れられない。

『怪物』

 今年の「第57回百想芸術大賞」で、作品賞、脚本賞、最優秀演技賞の三冠を達成し、まさに2021年を代表する一作として輝いた『怪物』。2021年は、“犯人探し”をメインとした傑作サスペンスが数多く誕生したが、その中でも別格の作品だったように思う。

 本作は、ある田舎町を舞台に、連続殺人事件の謎を追う心理スリラー劇。20年前に妹を連続殺人事件で失い、その容疑者となった過去を持つ片田舎のマニャン派出所勤務ドンシク(シン・ハギュン)のもとに、次期警察庁長官の有力な候補である父親を持つエリート警察官のジュウォン(ヨ・ジング)が移動でやってくる。そんな中、20年前と同じような猟奇殺人事件が発生。秘密や傷を抱えた住民たちは、全員がどこか何かを隠している様子。ジュウォンとドンシクはお互いに疑いの目を向けながら、腹の中を探り合いながら、パートナーとして捜査を共にするーー。

 ストーリーだけを見ると、よくある“犯人探しもの”のサスペンススリラーである。他の作品と一線を画していたのは、俳優陣の“怪物演技”と、強いメッセージ性だ。

 主演助演かかわらず全ての登場人物にしっかりとスポットライトが当たり、登場人物全員が怪しく見えてくる。そして全ての俳優陣が、これがキャリアの頂点であるかのような恐ろしいほどの“怪物演技”を全身全霊で体現してくる。20代で最高の演技力を誇ると言っても過言ではないヨ・ジングの熱演、新人俳優というのが信じられないほどに恐ろしい演技力を披露したイ・ギュヒや、チェ・ソンウン、そして百想で助演男優賞にノミネートされていたチェ・デフンなど、俳優陣の演技力は近年のドラマの中では圧倒的だった。そしてなんと言っても、百想で最優秀演技賞を受賞したシン・ハギュンの怪演は鳥肌ものだった。赤く充血させた目で震えを表現し、“目の血管で演技する俳優”と称えられた彼の姿を見るだけでも観る価値がある。

 本作の最大の凄みは、サスペンススリラーというジャンルを超え欲望と心理に迫りながら、最も恐ろしい“人間”の本性を描き出すことに成功している点だ。一つの悲劇的な事件を介して、人間の両面性、二面性を引き出し、多角的に描き出している。誰もが小さなミスや利己心からモンスターになり得るということ。さらに「愛する人を守るため」、「真実を明らかにするため」という利己心とはかけ離れた価値観や思想が、時に人の立場を考慮しないモンスターを生み出すこともあるというメッセージを投げかけた。さらに世間や他人には明かされることのない被害者の傷や悲しみを描き出し、最後には言葉にならない感動さえ生み出す。驚くべきことに、サスペンススリラーにも関わらず涙を流した視聴者も少なくないだろう。

 地味で陰気、とにかく“渋い”作品のため、『怪物』は、おそらく好き嫌いは分かれるだろうが、個人的には2021年の最高傑作だと思う。『秘密の森』に続くサスペンススリラーの名作として名を刻んだ本作は、全てのドラママニアに捧げたい一級品のサスペンススリラーである。

■配信情報
『調査官ク・ギョンイ』
Netflixにて配信中
脚本:ソン・チョイ
演出:イ・ジョンフム
出演:イ・ヨンエ、キム・ヘジュン、キム・ヘスク、クァク・ソニョン、ペク・ソンチョル、チョ・ヒョンチョル
写真はJTBC公式サイトより

『秘密の森』
Netflixにて配信中
演出: アン・ギルホ
出演: チョ・スンウ、ぺ・ドゥナ、イ・ジュンヒョク、ユ・ジェミョン、シン・ヘソン、ユン・セア

■作品情報
『怪物』
脚本:キム・スジン
演出:シム・ナヨン
出演:シン・ハギュン、ヨ・ジング
写真はJTBC公式サイトより

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「海外ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる