上白石萌音の安子を応援せずにはいられない 『カムカム』、舞台作品で見せる“嘘のなさ”

上白石萌音の安子を応援せずにはいられない

 正直に言うと、映像での彼女にさほど興味が持てなかった。

 出世作となった『恋はつづくよどこまでも』(2020年・TBS系)でも、可愛いとは思いつつ撃ち抜かれるまではいかなかったし、翌年の『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)は出版社が舞台ということもあり「こんな新人編集者がいたらキツい……」くらいのテンションで視聴した。

 が、今は上白石萌音にがっちりハマっている。

 その大きな要因のひとつが現在放送中の『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)。100年に渡り三世代の主人公を描くこの朝ドラで、上白石は初代ヒロイン・橘安子を演じているのだが、居方すべてが愛おしく、くるくる変わる表情から目が離せない。

 特に第9話、想い人である繊維会社社長の長男・雉真稔(松村北斗)への気持ちを断ち切るため、配達と嘘を吐き大阪を訪れて稔と束の間のデートを楽しんだ後の列車内。この1日を一生の思い出にしようと固い椅子で縮こまっていた彼女の前に突如現れた稔の姿に動揺し、嬉しさと困惑とでふるふる震える表情は演技の域を越えていた。あの姿を見たら「ここはもう朝ドラの定石をぶち壊して、稔と幸せになってほしい、YOUさんも能面みたいな顔で安子に詰め寄るのやめてえ」と思わずにはいられない。やだなあ、戦争ターン……。

 今や若手といわれる女性俳優も、他の誰にも負けない武器を持たなければ埋もれてしまう時代。それでいうと上白石萌音の武器は、現代と違う世界観に身を置いた時の説得力ではないだろうか。『カムカム』でもそれは最大限に生かされており、彼女自身が醸す昭和の香りが画面を通して伝わってくる。嘘がない。

 そんな現代とは違う世界観に身を置いた時の説得力を、上白石がもっとも発揮している場所のひとつが舞台だ。最近でいえば、大阪、東京での上演を経て、現在は博多で公演中のミュージカル『ナイツ・テイルー騎士物語ー』。

 ミュージカルの金字塔『レ・ミゼラブル』のオリジナル版演出家であるジョン・ケアードが脚本と演出を手掛け、“帝劇の王子ふたり”=堂本光一と井上芳雄が主演を務める本作で、彼女は牢番の娘役として出演。騎士役のひとり、井上芳雄演じるパラモンに恋をし、牢に囚われた彼を逃がして報われない想いに身を焦がしながら物語を動かす重要なキャラクターを演じている。

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