上白石萌音の安子を応援せずにはいられない 『カムカム』、舞台作品で見せる“嘘のなさ”

上白石萌音の安子を応援せずにはいられない

 『ナイツ・テイル』の初演は2018年。3年の時を経てブラッシュアップされた今回の再演でも上白石の演技は光っていた。自分がパラモンを逃がせば、牢番である父親に重い罰が下るかもしれない。でも愛した彼をこのままにはしておけないと悩み、自らの意志を貫く可憐な演技には胸を掴まれたし、ミュージカルで言われがちな“急に歌になるのが変”との冷笑を吹き飛ばすかのように、芝居から歌へスっと入り込む表現力も秀逸だった。彼女が歌い出すと劇場中の空気が綺麗に洗われていく……そんな感覚に襲われたほどである。

 その上白石萌音が新たな挑戦の場として選んだのが舞台『千と千尋の神隠し』。2001年公開、宮崎駿が監督したスタジオジブリのアニメーション映画を世界で初めて舞台化する本作にて、上白石は主役の千尋役を担う(橋本環奈とのWキャスト)。

 『千と千尋の神隠し』は両親とはぐれた少女・千尋が、ひょんなことから八百万の神々がいる世界に迷い込み不思議な体験をする物語。舞台版は『ナイツ・テイル』でも上白石と組んだジョン・ケアードが宮崎駿の原作を翻案し、演出も担当する。まさに、主人公が現代とは違う世界観に身を置くこの作品で、彼女がどんな千尋像を構築し、八百万の神々やハク、カオナシ、湯婆婆たちと対峙するのか楽しみでならない。

 そして第3週のラストとなる15話でまさかの展開を見せた『カムカムエヴリバディ』。てっきり稔との初恋は終了し、安子は弟の勇(村上虹郎)と結ばれる流れなのかと思いきや、開始1分で事態は急転直下。稔の父・千吉(段田安則)のナイス采配により、安子と稔は祝言を挙げることに。この回の終盤ではふたりで子どもの名前まで考え出すスピード進行であった。

 と、ここまで書いて気付いたのだが、だからこその上白石萌音なのである。

 三世代のヒロインを100年に渡って描くということは、物語が進む速さも通常の朝ドラの3倍。主軸を担う俳優は、作中で描かれなかった時間をしっかり自分の中に落とし込み演じきる実力がなければ視聴者はおいてけぼりになってしまう。和菓子屋に生まれた小さな女の子が家族に愛され育つ中で、英語やジャズ、コーヒーに出会い、店を訪れた青年と恋に落ちて結ばれ結婚する。ここまでたった3週だ。

 その駆け足の3週を上白石萌音は安子として成長しながら生き、説得力ある演技を魅せた。おそらく第4週は戦時中の空気がさらに色濃くなり、稔も戦地へと旅立って、安子には厳しい状況が描かれるだろう。そんなツラい展開を予想しつつ、安子の……上白石萌音の全力で応援せずにはいられないあの健気な笑顔をこれからもずっと見続けたいと思う。完全に遠い親戚のテンションになりながら。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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