『アイの歌声を聴かせて』が掲示したポジティブな未来図 吉浦康裕が描くAIとの共存

 さて、AIであるシオンがなぜ急に歌いだしたかというと、サトミが好きな歌だからであり、サトミを幸せにしたいからだ。その真っすぐすぎる狙いを多彩に表現するために、さまざなタイプの楽曲が本作で披露されている。ポップス、ジャズ、バラードと様々に、歌い、踊り、観るものを楽しませてくれる。

 ストーリーが進むにつれ、シオンはサトミ本人を幸せにするためには、周りの人間をも幸せにする必要があることに気がつき、さまざまに行動していくようになる。なぜAIであるシオンはミュージカル的な手段を講じたのか……というのは、ぜひ作品を観て確認してほしい。

 AIという機械判断によって描かれる、ためらいや恥ずかしげのないシオンの姿は、見ている人間としては無邪気さとして受け取れ、アニメではないと描くのが難しい人物造形であろう。加えて、田舎の高校生活を中心に据えたストーリーラインや舞台設定、吉浦らしいテクノロジーに対する見方も含めて、本作品にはポジティブな空気が詰め込まれた。吉浦のフィルモグラフィでも最も明るく仕上がり、まさしく全年齢対象な作品になった。

 「本タイトルの“アイ”には三つの意味が込められています。「愛」「AI」そして「私」です」と吉浦はTwitter上で明かしている。本作において、歌や音楽は幸せを運ぶものとして役割を果たしており、同じようにAIテクノロジーが日常生活にかなり密接した風景として描かれている。「アイ」は姿かたちを変えてどこにでも顔を覗かせ、僕たちの手元に届く。その眩いばかりにポジティビティをもった本作は、AIとの共存がそこまで来ているいまの時代だからこそ輝くのかもしれない。

■公開情報
『アイの歌声を聴かせて』
全国公開中
原作・監督・脚本:吉浦康裕
共同脚本:大河内一楼
キャラクター原案:紀伊カンナ
総作画監督・キャラクターデザイン:島村秀一
声の出演:土屋太鳳、福原遥、工藤阿須加、興津和幸、小松未可子、日野聡
歌:土屋太鳳
アニメーション制作:J.C.STAFF
配給:松竹
(c)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会
公式サイト:ainouta.jp
公式Twitter:@ainouta_movie

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