『おかえりモネ』=朝ドラ+月9? りょーちん×みーちゃんの物語で深めたテーマ

『おかえりモネ』は朝ドラと月9が融合?

 そして、終盤の気仙沼編は気象予報士として成長した百音の立場から震災で亀島の人々が追った傷と作り手が向き合うことになる。

 震災と真摯に向き合ったからこそ、大人の視点で夢や理想を語る前向きな展開になったことは頭では理解できるのだが、そこからこぼれ落ちるネガティブな意見や、暗い本音があらかじめ排除されているように感じた。

 朝ドラで震災を描くのはこのあたりがギリギリだったのだろう。映像も役者の演技に頼りっきりで、自然と人間の関係を映像に落とし込む挑戦も後退してしまったように感じ、残念だった。ただ、みーちゃんこと百音の妹・未知(薪田彩珠)とりょーちんこと及川亮(永瀬廉)の物語は、生々しく見応えがあった。

 特に、いつも笑っているりょーちんが、精神的に追い詰められていたことが明らかになる110回は鬼気迫るものがあった。百音に「笑わなくていいよ」と言われたりょーちんが「お前に何がわかる? そう思ってきたよ。ずっと。俺以外の全員に」と告白する場面は素晴らしく、この断絶から目をそらさないからこそ、安達奈緒子は信用できる脚本家なのだと改めて感じた。

 りょーちんを見ていると『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ系、以下『大切』)の柏木修二(三浦春馬)を思い出す。本作は安達が初めて月9で執筆したドラマで、高校教師の修二が女子生徒と一夜を共にしてしまう場面から始まる学園ドラマだ。

 修二は優しくてかっこいい理想の教師で、語る言葉は全て正論で何一つ間違ってないのだが、どこか受動的で自分がないように見える。そんな修二の抱える無自覚な空虚さがブラックホールとなって周囲の女たちを壊していくのだが、りょーちんとみーちゃんの関係を見ていると、こういう形で安達は『大切』のテーマを深めたのかと感心した。

 半年にわたって放送され、話数が多いため、朝ドラを執筆する脚本家は今まで培ってきた作劇手法やテーマを総動員せざるを得なくなる。その結果、これまでのキャリアの総決算となることが多いのだが、『おかえりモネ』が安達の集大成となったことは間違えないだろう。気真面目で不器用だが、愛嬌のある誠実な作品である。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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