『日本沈没』関東沈没が現実に 危機を目の前にして表れた天海と常盤のスタンスの違い
「俺には信じられないよ。この東京が沈んでしまうなんて」(常盤紘一)
日本の浮沈をかけた国政選挙のさなかで放送された日曜劇場『日本沈没-希望のひと-』(TBS系)第3話。田所博士(香川照之)の予測では関東沈没は1年以内に起こる。高名な地球物理学者のピーター・ジェンキンス教授(モーリー・ロバートソン)も田所説の信ぴょう性を裏付ける証言をし、最新データは半年後にも70%の確率で関東沈没が現実のものになると予想していた。
避けることのできない破滅的な最後を知った時、人間はどんな反応をするのだろうか? 自分にとって不都合な情報を無視したり、過小評価することを心理学で正常性バイアスという。副総理の里城(石橋蓮司)は「実によくできたフィクション」と現実を認めようとせず、未来推進会議の若手官僚たちは、目に見えない危機にあわてながらもどこか他人事のような雰囲気。それもそのはず。日之島は水没したものの、地震が起こったことをのぞけば、関東地方が海に沈むという大それた出来事の兆候はどこにも見えないのだから。
そんな一見すると何ごともない日常で危機を叫ぶ人間は、周囲から見れば気がふれたように映る。しかし、本人はいたって真剣で、世界を救わなければという一種の使命感に突き動かされている。天海(小栗旬)と実梨(杏)は、若手官僚と週刊誌記者という立場の違いはあっても同じ危機感を共有していた。関東沈没が現実に起こると知った時、2人の胸に去来したのは、とめどもない喪失感だった。天海は家族に去られた憂愁の中にあり、関東沈没がどうやら本当らしいと知った実梨は家族を失う恐怖に身震いする。
もし筆者が同じ状況に置かれたら、自分の中で合理的に解釈し、現実から目を背けていたかもしれない。現状維持を望む大多数の間では、そちらの方が何かと都合が良いからだ。だが、天海と実梨はそうすることができない。天海は東山内閣にCOMSを提唱し、関東沈没の原因を作ったことの自覚がある。日之島付近で海流に飲み込まれ、水没の証拠となるスロースリップをその眼で見てきた。実梨は真実を追求するジャーナリストの魂がそれを許さない。危機が目前にあると感じた彼らは、国民に向けて決死のアピールに打って出る。