『おかえりモネ』無力さを抱える耕治 “何も失くしていない側”としての苦悩

『おかえりモネ』耕治が抱える苦悩

 連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK総合)第23週「大人たちの決着」で描かれる“大人たち”には新次(浅野忠信)だけでなく、ヒロインの百音(清原果耶)の父・耕治(内野聖陽)も含まれるようだ。

 予告編では、仙台店の本店営業部長に抜擢され4月から単身赴任の話も出ていたはずの耕治が「銀行やめようかと思ってんだ」と衝撃告白するシーンが見られ、そんな彼に「おめぇ、海なめんてんのか!」と珍しく怒号を浴びせる龍己(藤竜也)の姿も映し出された。

 そもそも父親の牡蠣養殖業は継がずに、トランペット奏者として活動した後、地元に帰り銀行員となった耕治。このことに対する彼の葛藤、父親や新次ら“海の男”との目に見えない壁、彼が背負ってきた“十字架”が作中至るところで滲み出ている場面が描かれた。実家の寺を継ぐのか自身の進路に迷っていた三生(前田航基)にも「おやじが人生懸けてきた仕事を継がねえって十字架はなかなか重い」と、耕治は実感の込もった言葉を掛けていた。

 幼なじみの新次に対しても、新次の豪快なところには自分は敵わないというようなスタンスを若い頃からずっと耕治はとっていたように見えた。自身は“選ばなかった人生”でカリスマ的漁師として活躍する新次のことが耕治はきっと頼もしく、誇らしかっただろうし、どこか自身の海への想いや家業への想いを託しているようなところもあったのではないだろうか。新次の妻・美波(坂井真紀)にかつて想いを寄せていた耕治は、新次だからこそ身を引いたのだろう。

 だからこそ、東日本大震災で億を超える借金をして購入したばかりの新しい船を流され、そして美波まで行方不明になってしまった新次を何とか奮起させようと、漁師として再起させるために自分の船を買えるように融資をサポートしようとする。しかし、新次の隠していた借金が発覚し融資は通らず、新次の前に耕治が何とか灯そうとした希望の光、彼を思うがあまりのいわばお節介心が反対に新次をさらに追い込み、彼らの間の溝を深める結果になってしまう。最初、耕治からの提案に「やめとけ、おまえの立場がまずくなる」とためらった新次の不安が皮肉にも的中してしまったのだ。

 過去、龍己が同じく語気を強めたことがあったが、それも八方塞がりの新次を見かねて、自宅に新次と亮を住まわせたいと言い出した耕治に対してだった。「おめぇは漁師ってものが分かってねぇな! 意地で生きてんだよ、漁師は。そこまで、潰すな」。この言葉は幾重にも耕治の心に重くのしかかっただろう。“何も失くしていない側”の耕治と“失くしてばかりの新次”の対比。堕ちゆく新次を見ていられず何とか手を尽くしたいとするも、それが新次の最後の砦・漁師としての尊厳、プライドまでも奪い取ってしまいかねず、自身のエゴを押し付けていただけではないかと自問自答もしただろう。全く自分自身にその意図がなかったからこそ、自身が知らず知らずのうちに“失くしていない側”の強者の弁を振るっていたのではないかと、自分自身に幻滅しゾッとしたこともあっただろう。そしてそれは単なる一時的な“施し”になってはいないだろうかと、答えの出ない渦の中に飲み込まれそうになったのではないだろうか。さらにはこれを同じように自身が“選ばなかった側の人生”にいる父・龍己から言われたことも相当に堪えたはずだ。

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