『おかえりモネ』無力さを抱える耕治 “何も失くしていない側”としての苦悩

『おかえりモネ』耕治が抱える苦悩

 だからこそ、耕治は朝岡(西島秀俊)に言ったのだろう。東京で自由に、楽しそうに仕事をしている百音のことが嬉しくて仕方ない。もう1人の“頑張り屋さん”未知(蒔田彩珠)が夢に向かっている姿が“希望”なのだと。故郷を離れることの後ろめたさのようなものはもちろん、同じ故郷の中にいても被災の度合い、そして復興の進捗など様々な目に見えない分断によって超えられない壁に日々ぶつかりながら、どうしたって同化できない、一枚岩にはなりきれない歯痒さを抱えている耕治だからこそ、それを同じように感じているだろう子ども世代が、それでも、その超えられないギャップを抱えてでも“自分の人生”を切り開き生きようとしている姿が眩しいのだろう。地元を離れて活躍する百音はもちろんのこと、研究熱心で当然のごとく大学進学を考えているのかと思いきや、迷いなく水産試験場への就職を決めた未知もまた耕治からすれば“自分が選ばなかった側の人生”を生きる人だ。「娘たちだけじゃないな、子供たち全員に言ってやりたい。どうなるかわからない世の中、どこに行ったって構わない。ただ、お前たちの未来は明るいんだって。決して悪くなる一方じゃないって、俺は信じて言い続けてやりてえ」と、耕治は自分自身にも言い聞かせているように語っていた。

 この言葉に思わずアルコール依存症の治療中に再びお酒に手を出してしまった新次に対する耕治の向き合い方を思い出した。「今日飲んでしまったんなら、明日から……明日からまた前を向く1日目を始めればいいって、そう言ってやりたい。言い続けてやりたい」と亜哉子(鈴木京香)にこぼしていたが、耕治は立ち位置が違い全てを共有できるわけではない絶望を知りながらも、だからこそ相手を、未来を“信じたい”人だ。そして自身の無力さを嫌と言うほど痛感してきたからこそ、それでもせめて“自分だけは”相手を信じ続け味方であろうとする人だ。誰かを信じることで自身を奮い立たせているような側面もあるのかもしれない。

 耕治からの家業への想いはこれまでも描かれてきていたが、龍己側が息子が家業を継がなかったことに対してどう思ってきたかについては明言されてこなかった。ここにきて龍己がずっと抱えてきたどんな想いが聞けるのか、永浦親子、及川親子それぞれの対峙を心して見守りたい。

※記事初出時、本文に誤りがありました。訂正の上、お詫び申し上げます。(2021年10月18日10:16)
誤:仙台の支店長→正:仙台の本店営業部部長
誤:東京でトランペット奏者として活動→正:トランペット奏者として活動

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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