エミー賞席巻『ザ・クラウン』の真価とは 未だ根強いダイアナ人気が話題に一役買った?
コメディシリーズ部門はAppleTV+の『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』が作品賞はじめ7部門を受賞した。主人公テッド・ラッソ(ジェイソン・サダイキス)が持ち前のポジティブシンキングで弱小サッカーチームを率いていく本作は、コロナ禍で不安を抱えた視聴者を大いに励ました事だろう。総勢7名が乱立した演技部門では懸念された票割れもなく、助演女優賞をハンナ・ワディンガム、助演男優賞をブレッド・ゴールドスタインが受賞。最近、出世作『ゲーム・オブ・スローンズ』の拷問シーンで身体的苦痛を受けたと告白したワディンガムは喜びを爆発させ、苦労人の大金星はこの夜のベストモーメントの1つとなった。
『テッド・ラッソ』で特に感心させられるのが、サッカー選手を演じた役者達のリアリズムだ。中でもピークを過ぎたエースストライカー、ロイに扮したブレッド・ゴールドスタインは時に俳優以上のカリスマ性を発揮するサッカー選手そのもの。聞けば本職は脚本も手掛けるコメディアンとのことで、この夜は役柄そのままのガラの悪さとユーモアを交えたスピーチで笑わせてくれた。『テッド・ラッソ』チームは作品のイメージ同様、好感度抜群なのが嬉しい。
そんな『テッド・ラッソ』が唯一不在の主演女優賞ほか、監督賞、脚本賞の重要部門をかっさらったのがHBOMaxの『Hacks』だった。近年、『ファーゴ』『レギオン』そして『ウォッチメン』と話題作へ立て続けに出演し、今年は『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』の助演女優賞とダブルノミネートとなった70歳、ジーン・スマートの主演女優賞受賞に場内はスタンディングオベーションとなった。女優は年を取る毎にキャリアを先細らせると言われてきたが、スマートは年々キレを増しており、同世代でこれほど充実したキャリアを形成しているのは他にメリル・ストリープくらいではないか。
今年最大の激戦区であるリミテッドシリーズ部門を制した『クイーンズ・ギャンビット』は配信からほとんど1年経ってさすがに息切れしたのか、既に脚本家としてオスカー候補経験のあるスコット・フランクが脚本賞を落とし(代わりに監督賞を獲った)、本作で大ブレイクを果たしたアニャ・テイラー・ジョイの主演女優賞も叶わなかった。大量受賞した技術部門(クリエイティブ・アーツ・エミー賞)は別日程の発表であったため、存在感を見せたのは演技部門で3賞に輝いた『メア・オブ・イーストタウン』の方だった。
田舎町で起きた少女殺人事件の真相を巡る本作で、刑事メアに扮したケイト・ウィンスレットは主演女優賞を受賞した。プロデューサーも兼任した彼女は喜びもひとしおの様子で、ハリウッドでは珍しい中年女性を主役とした本作の意義を強く訴えた。ハイコンテクストな作品が相次ぐPeakTVにおいて、主人公に的を絞ったキャラクタードリヴンの語り口はかえって新鮮であり、ウィンスレットの独壇場だった。