今の時代にこそ重要な示唆に富んだ秀作 『インベスティゲーション』が確立した新ジャンル

示唆に富む秀作『インベスティゲーション』

 このところ実際に起きた事件を題材にした犯罪ドラマの好調が目立つ。1970年代のアジアを舞台に異様な連続殺人事件が展開する『ザ・サーペント』(2021年、Netflix)や1983年に発覚したイギリス史上類を見ない凶悪犯罪を描いた『DES/デス』(2020年、STARZPLAY)、1985年に起きた“一家3世代殺人事件”を描いた『ホワイトハウス・ファームの惨劇~バンバー家殺人事件~』(2020年、WOWOW)、1980年代の未解決連続殺人事件の捜査を描く『The Pembrokeshire Murders(原題)』(2020年、未)など、英民放ITVや英公共放送局BBCなどが関わるミニシリーズが代表格だ。

 いずれもマスメディアがこぞって飛びついたセンセーショナルな連続殺人事件。犯人はある意味でカリスマ性のあるサイコパス、ソシオパスで、中高年の視聴者にとっては記憶がある年代が時代背景という共通項がある。もちろん、こうした題材はいつの時代においても定番ではあるが、近年は特にNetflixを筆頭に実在の犯罪者を扱ったドキュメンタリー・シリーズも非常に人気が高い。このジャンルはフィクションも含めて空前のブームと言えるほど作品数は今後も増える傾向にある。※1

 そうしたトレンドを背景にして登場した秀作ドラマが『インベスティゲーション』(2020年、スターチャンネルEX)だ。2017年8月、コペンハーゲン南の海にあるケーエ湾で、デンマークの発明家にインタビューするために潜水艇に乗り込んだ優秀なジャーナリスト、キム・ウォールが行方不明となった。捜索が行われ、潜水艇から発明家のみが救助されるが潜水艇は沈没。発明家に殺人容疑がかけられるが、デンマーク警察は繰り返し供述を変える彼に翻弄される……。一般的に”潜水艇事件”として知られる本作のショーランナーは、いずれもアカデミー賞ほかで高く評価されている『アナザーラウンド』や『偽りなき者』の脚本家で、『ある戦争』の監督・脚本を手がけたデンマーク出身のトビアス・リンホルム。TVでは傑作ドラマ『コペンハーゲン』の脚本家、『マインドハンター』のエピソード監督としても知られるリンホルムが全6話の監督&脚本を担当し、自身の作家性を色濃く反映した映像世界を作り上げている。その最大の特徴であり他の同種の作品と一線を画している点は、犯人を一度も登場させることなく、あくまでも捜査に関わった人々と被害者の両親にフォーカスした作りだ。

 事件が発覚した冒頭で犯人は逮捕されるが、番組が犯人の名前を連呼することはない。事件当時、タブロイド紙やメディアが躍起になり、国際的な注目を集めて報道がなされたという喧騒やゴシップ色とも無縁だ。このジャンルの王道であるフラッシュバックで衝撃的な事件を再現することもせず、捜査の進捗状況を極めて忍耐強く、丹念に描き出し、二転三転する犯人の供述に翻弄されながらも地道な捜査を続ける。そのさまは時にじれったくもあるのだが、それこそがリンホルムの作風と言えるだろう。代表作の一つである『ある戦争』にも顕著だが、感情的で扇動的な盛り上げ方はせず、淡々とシーンを積み重ねていきながら、最終的に作品が伝えたかったテーマやリンホルムの意図をくっきりと浮き彫りにする。それは実際には犯罪が立証されるまでに捜査がどのような過程をたどったのか、また好奇の目にさらされ歪められた被害者の本当の人格や、優秀なジャーナリストであったという「事実」を力強く訴えるものである。

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