松岡昌宏『連続ドラマW 密告はうたう』の不穏な手触り 「警察とは何か?」を問う恐ろしさ
対してドラマ版では、小説における心情説明の部分が極限まで削られているため、皆口を監視する佐良の姿を映像のみで見せようとする場面が多い。ここが小説とドラマの一番の違いだろう。
面白いのは、引いた目線でアリの巣の中を観察するように警察内部の動向を眺める本作の映像手法が、佐良が皆口を内偵する様子とシンクロしているということ。
そのため、皆口を尾行しながら盗撮している佐良の状況を、映像を通して追体験しているような気持ちになってくるのだ。より突き詰めた言い方をするならば「監視する佐良の姿を監視する」ように撮っているのが、ドラマ版『密告はうたう』の映像だ。
そして、盗撮するような距離感で撮ることで、改めて際立つのが警察内部の犯罪を内偵するジンイチという部署の異様さである。
劇中には佐良が同期の鑑識課員・北澤(眞島秀和)から、嫌味を言われる場面が登場する。彼らがジンイチの佐良に対して強い嫌悪感を示すのは、仲間を疑い捜査対象とする警察内警察という独自の役割を担っているからだが、おそらく同族嫌悪的な感情も存在するのではないかと思う。
国民の安全と秩序を守るために事件を捜査し犯人を逮捕する資格を持つ警察という存在は常に矛盾を抱えており、市民を守ると同時に監視対象とし、治安を乱す犯罪者だと疑わなければならない。この矛盾に対する苦悩は、現在放送されている交番を舞台にしたドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)等でも描かれている警察官が抱える根源的な悩みだが『密告はうたう』では、同僚の警察官すらも正義のために疑い、プライバシーを暴かねばならない姿が描かれる。
つまり、守るべき市民を「犯罪者ではないか?」と監視する警察の矛盾がよりあらわになっているのがジンイチの仕事だろう。仲間を一番に疑わなければならない彼らは、警察の矛盾を体現しているが、逆に言うともっとも警察らしい警察とも言える。
同時に考えさせられるのが、警察と犯罪者の境界についてだ。佐良は職務として盗撮や尾行をおこなう。その行為は罪には問われないが、佐良の姿を観ていると警察のやっていることは本質的には犯罪者と同じではないかとすら思えてくる。これは他の警察ドラマを観ている時にはあまり考えない本作ならではの不穏な手触りだ。「警察とは何か?」と問いかけてくる、恐ろしいドラマである。
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■放送情報
『連続ドラマW 密告はうたう 警視庁監察ファイル』(全6話)
WOWOWプライム、WOWOW 4K、WOWOWオンデマンドにて、放送・配信中
出演:松岡昌宏、泉里香、池田鉄洋、三浦誠己、戸塚祥太(A.B.C-Z)、秋元才加、眞島秀和、ブラザートム、松浦祐也、アキラ100%、千葉哲也、甲本雅裕、木下ほうか、木村祐一、鶴見辰吾、仲村トオル
原作:伊兼源太郎『密告はうたう 警視庁監察ファイル』(実業之日本社文庫刊)
監督:内片輝
脚本:鈴木謙一
音楽:大間々昂
企画・プロデュース:武田吉孝、下田淳行
プロデューサー:井口正俊、星野秀樹
制作プロダクション:ツインズジャパン
製作著作:WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/mikkoku/
WOWOWオンライン:https://www.wowow.co.jp/join/streaming/