松岡昌宏『連続ドラマW 密告はうたう』の不穏な手触り 「警察とは何か?」を問う恐ろしさ

『密告はうたう』は「警察とは何か?」を問う

 WOWOWで8月29日22時より第2話の放送・配信を迎える『連続ドラマW 密告はうたう 警視庁監察ファイル』は「警察の中の警察」と言われ、警察官の不正を取り締まる警察庁人事一課監察係(通称・ジンイチ)を舞台にした連続ドラマだ。

 ジンイチに所属する元警視庁捜査一課の佐良正輝(松岡昌宏)は「免許証データを売っている」という内部告発があった府中運転免許試験場に務める巡査部長・皆口菜子(泉里香)の素性を調べるよう、人事一課監察官の能馬慶一郎(仲村トオル)から命じされる。

 皆口は捜査一課時代の佐良の同僚だった。1年半前、佐良は皆口と、彼女の婚約者で同じ捜査一課の斎藤康太(戸塚祥太/A.B.C-Z)と共にある事件の捜査にあたっていた。しかし斎藤は佐良と皆口の目の前で殉職。その後、佐良はジンイチへ、皆口は運転免許試験場へと飛ばされることとなる。

 物語は皆口を尾行し、怪しい動きはないかと行動確認(通称:コウカク)する現在の佐良の姿と、捜査一課時代に皆口、斎藤と共に捜査に当たっていた過去の佐良の姿が、交互に描かれていく。

 現在パートと過去パートは佐良の髪型が違い、表情も喋り方も微妙に異なるため、すぐに気付くのだが、はじめは説明がないまま話が進んでいくため、同一人物なのか別人なのかと戸惑った。

 こういった言葉の説明を最小限に止める表現は、どちらかというと映画的なものだ。警察の専門用語や法律用語が多いため、説明的な台詞のやりとりがどうしても多くなってしまう日本の刑事ドラマでは、めずらしい見せ方である。

 ではなぜ、このような見せ方を本作は選んだのだろうか?

 本作を観ていて気になるのは「皆口は犯罪に絡んでいるのか? そして過去の事件と関わりがあるのか?」という事件に対する関心だが、それ以上に気になるのが、佐良たち警察官の心情が捉えづらいことだ。

 つまり、事件以上に事件に関わる刑事たちの内面がブラックボックス化されているのだが、やがて内面が見えない刑事たちの有り様自体が、不穏で不気味なものに見えてくる。

 このあたりは、伊兼源太郎の原作小説(実業之日本社文庫)の印象とはだいぶ違う。小説では物語が三人称で書かれており、事件の経過や警察内部の事情、そして佐良の心境が作者によって簡潔に語られている。語り口こそ乾いたハードボイルド調で、対象に対して距離が取られているが、同僚を疑うことになった佐良の苦悩はしっかりと伝わってくる。物語の時系列も過去と現在がはっきりと書き分けられているため、混乱することなく読みすすめることができる。

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