『わかっていても』がヒットした3つの理由 古典的ラブロマンスの作風に隠れた新しさ

『わかっていても』がヒットした3つの理由

2. “ツッコ見&のぞき見”の効用

 この2人を徹底的に美しく、見る者をヤキモキさせるように映そうとしている点もポイント。ソン・ガンが演じたジェオンは佇んでいるだけで、女性から声をかけてくるような男。恋愛をゲームのように楽しみ、その行動はすべて計算の上。これ以上踏み込んでくるな、という壁までも完璧に作る。彼に惹かれていく女性たちの感情を、余裕をかましてもてあそぶ、言ってしまえば“最低の男”だ。

 ハン・ソヒ演じるナビはその名前が「蝶」を表すことから、そんなジェオンのタトゥーとの運命的なつながりを信じてしまうことになる。親友ビンナが言うように、ナビは「かわいいけれど、男を見る目がない」。思えば、美術講師だった元カレも酷い男だった。ナビに何の相談もなしに彼女の姿をモデルに作品を制作し、ギャラリーで発表した。そのカレも芸術家で、教え子に手を出すような男であることは“わかっていても”、自分だけは特別と思いたかったのだ。

 そうして愛を信じられなくなった中で出会ったジェオンの、女性慣れしているゆえの居心地の良さに心が動かされてしまうナビ。そんなナビを見守る視聴者は「そこはNOでしょ!?」「いいのか、それで!?」と、いちいちツッコミを入れながらも、相手がジェオン(ソン・ガン)なのだからま、仕方ないか、と思い至るまでがワンセットとなっていく。

 また、大学の作業場やナビの家の前で見つめ合う2人を、距離を取ってとらえるロングショットや、特に第9話ラストの雨の中の会話シーンで効果的だったクローズアップの転換などは、まるで取り巻きの友人たちのように2人を近くに感じ、ときには2人の様子をのぞき見しているような感覚にもなれる。ジェオンの蝶のタトゥー越しにナビの戸惑い顔が映る構図が多いのも確信犯。劇中の授業に登場した、俳優と目が合ったような錯覚を起こす「テンション・トゥ・カメラ」技法も利いており、いわば典型的で古典的な撮影手法で2人の感情の高まり、揺らぎを目の当たりにすることができ、没入感をいっそう高めてくれたといえる。

 幻想的で美しいラブシーンもツッコ見&のぞき見してみよう。

妄想 - ハン・ソヒ、夢の中でソン・ガンに抱かれる | わかっていても | Netflix Japan

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