『僕のヒーローアカデミア』は“限界突破”し続ける 原作、TVアニメ、劇場版から紐解く魅力
ここに関連していくのが、『ヒロアカ』の最大の特長でもある、「徹底的に追い詰めていく」アプローチ。堀越氏が「傷跡を残さないという描き方もありますが、デクには刻んでいくと連載当初から考えていました」(コミックス12巻より)と語っているように、本シリーズでは基本的に生傷が絶えない。超序盤の雄英高校の入学試験では、デクの両足と右腕が折れるという衝撃的な展開がなされ、林間学校でのマスキュラーとの戦闘では「あと二度三度同じような怪我が続けば、腕の使えない生活になると思っておいて」と医師から伝えられるほどの重傷を負う(その結果、シュートスタイルへとつながる)。
そのぶん、「救けたい」という想いの強さ――自己犠牲の精神が引き立っていくわけだが、劇場版では「とにかく追い込む」が合言葉になっており、『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』でも『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』でも、デクたちはヴィランに徹底的に痛めつけられる。第2作では「全員が死闘に参加している」感を出すため、堀越氏が自ら脚本修正をオーダーしたという(『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』劇場公開時の来場者特典『僕のヒーローアカデミア Vol.Rising』内の堀越氏のインタビューより)。
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄(ヒーロー)~』においては、デクはもちろんのこと切島鋭児郎や峰田実、上鳴電気らが身体を張ってデクたちに道を作る姿が丁寧に描かれ、爆豪と轟のレアな共闘も満載(こうしたファン垂涎のコンビネーションは、劇場版シリーズ全体を通して熱量高く描かれる)。
また、シリーズ全体でキャラクターの成長を丹念に描いていくため、「現時点でできること/できないこと」の線引きが『ヒロアカ』は明確。本作においても、ウォルフラムにデヴィットを連れ去られ、救えないという「現時点のデクの限界」がちゃんと示される。そこが、堀越氏が「出し惜しみせずにアイデアを提供した」という、オールマイトとデクの師弟共闘への布石となっていくわけだ。
目の前でデヴィットを連れ去られ、絶望するデク。そこに駆け付けたオールマイトは言う。「こういう時こそ笑え! 緑谷少年」と。「君はヒーローになれる」「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの」「怖い時不安な時こそ笑っちまって臨むんだ!!」「余計なお世話は、ヒーローの本質」など、オールマイトがデクに伝える名言は数多いが、本作でも改めて“応用編”的にこのセリフが挿入されるのが秀逸。ちなみに、オールマイトに「笑ってる奴が一番強い」という精神を教えたのは、師匠の志村菜奈。ここもまた、技だけでなく“義勇の心”の継承といえる。
そして、本作は最大の見せ場へと突入。活動限界や精神的にダメージを受け、ピンチに陥ったオールマイトを助けるのは、弟子のデク。その際の「困ってる人を救けるのがヒーローだから」というセリフが、実に効いている。困っている人は誰でも救けたいと思うのが、デクの本質。それは、憧れであり師匠のオールマイトに対しても同じなのだ。そしてここから、原作では本格的に描かれることがなかった、「デクとオールマイトの師弟共闘」が最大熱量で描かれていく。連携技「ダブルデトロイトスマッシュ」はもちろん、ひた走るオールマイトのバックショットに、デクがフレームインしてくる演出、デヴィットがデクの姿に若き日のオールマイトを重ね合わせるシーンなどが熱い。ここで彼もまた、「次世代への継承」の意義と可能性を悟るわけだ。
まさに劇場版でしか観られない出血大サービスの見せ場なわけだが、劇場版『ヒロアカ』シリーズは以降もプルスウルトラなアイデアを次々投入。『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』では、デクが爆豪に個性を譲渡するという「原作の最終決戦用にとっておいたアイデアのひとつ」を惜しみなく提供。まさかの展開に、劇場公開時、観客の間で衝撃が走った。『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』では、世界を舞台にデクや仲間たちが大活躍する。また、コミックス3巻、TVアニメ第1期で描かれたUSJ(ウソの災害や事故ルーム)でのオールマイトVS脳夢を彷彿とさせるバトル演出も仕込まれており、シリーズを追いかけているファンにとってはたまらないものがあるはずだ。
このように、シリーズを連続して観ていくことで、感動が何倍にも跳ね上がるのが『ヒロアカ』の大きな魅力。ちなみに小ネタだが、人気キャラクターのホークスの初期デザインは、堀越氏の過去作『逢魔ヶ刻動物園』のタカヒロに近いものだった。しかし、『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄(ヒーロー)~』にタカヒロを登場させたこともあり、現在のキャラデザに落ち着いたという経緯がある。また、本作の劇中でメリッサが制作したサポートアイテム「フルガントレット」についても、シビれる逸話が……。デクとオールマイトがお互いに影響を及ぼし合っていくように、『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄(ヒーロー)~』は、原作にもプルスウルトラを促していったのだ。
原作からTVアニメ、劇場版へ。そして、再び原作へと循環していく『ヒロアカ』の世界。もっといえば、デクの担任である相澤消太の過去編などは、スピンオフ作『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミアILLEGALS-』ともつながっている。さらに向こうへ進化し続ける『ヒロアカ』は、コンプリートしてこそ無限100%の力を発揮するのだ。
■放送情報
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄(ヒーロー)~』
日本テレビ系にて、8月6日(金)21:00〜22:54放送
※地上波初放送、本編ノーカット
原作・総監修・キャラクター原案:堀越耕平(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:長崎健司
脚本:黒田洋介
キャラクターデザイン・チーフ作画監督:馬越嘉彦
音楽:林ゆうき
アニメーション制作:ボンズ
声の出演:山下大輝、三宅健太、志田未来、生瀬勝久、岡本信彦、佐倉綾音、石川界人、梶裕貴、井上麻里奈、増田俊樹、広橋涼、畠中祐、真堂圭、小山力也
(c)2018「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE」製作委員会 (c)堀越耕平/集英社