アニメ『僕のヒーローアカデミア』海外での反応を検証 5期の評価が低い理由とは?

『ヒロアカ』海外の反応は?

 スーパーヒーローの本場といえば、アメリカだ。スーパーマンやバットマン、アイアンマン、キャプテン・アメリカに始まる名だたる英雄たちの物語がアメリカン・コミック、通称アメコミから語られ続け、今や北米における最大のビジネスマーケットの一つとも言える。まさに、ヒーロー大国とも言えるアメリカで、そして世界で長きにわたって愛されているのが『僕のヒーローアカデミア』である。

 2014年から漫画家・堀越耕平により『週刊少年ジャンプ』で連載され、2015年にはテレビアニメ化された本シリーズも、8月2日発売の誌面で7周年を迎えた。世界の総人口の8割が「個性」というスーパーパワーを持って生まれる社会で、「無個性」である主人公の緑谷出久が憧れの存在オールマイトのようなヒーローになる夢を叶えるために奮闘する。特にスーパーヒーローというジャンルを扱う上で、原作でのその描き方や演出の随所から感じられるアメコミ意識とリスペクト、それらへのオマージュがふんだん盛り込まれている本作。原作者の堀越も『X-MEN』に始まるマーベル・コミックの作品から大きく影響を受けていると公言している。では、そんなヒーローの本場ではどのように『ヒロアカ』は受け入れられているのだろうか。劇場最新作の公開も記念して、海外の反応を探っていきたい。

シーズン1から高評価、数々のアニメ賞に輝く好スタートの理由

 具体的な海外視聴者ファンの声に触れていく前に、まずは大局的な評価について見ていこう。批評家サイト「ロッテン・トマト」では、アニメのシーズン1(2016年)が批評家満足度100%、観客満足度90%と早くも最高潮の評価。それにとどまらず、同年には配信サービス・クランチロールによるアニメアワードにて、今年のアニメ賞にノミネート。加えて、今年のヒーロー1位(緑谷出久)、今年のヴィラン3位(死柄木弔)、ベストボーイ賞3位(緑谷出久)、ベストガール賞2位(麗日お茶子)、ベスト戦闘シーン2位(デクvs爆豪:1期7話)、ベストアクション2位を受賞。翌年の同アワードでは1位が増え、さらに多くの賞を受賞している。

ヒロアカまるわかり!第1期を振り返る『僕のヒーローアカデミア ヒーローノート』

 シーズン1(入学、USJ襲撃事件編)の評価が非常に高かったこともあり、以降は原作にも注目が高まって漫画部門での受賞も目立ち、2019年には由緒正しきハーベイ賞BestManga部門にまでノミネートされた。

 そもそも、この好スタートが切れた背景として従来のアメコミ作品との良い意味での“違い”が批評家側から上がっている。ポリゴンの記者は本作を「『ティーン・タイタンズ』(DC)や『ランナウェイズ』(マーベル)、『ヤング・ジャスティス』(DC)のような雰囲気があり、最も近いテーマ性と物語を持つのは忘れられやすい(しかし最高傑作の)ディズニーの手がけた『スカイ・ハイ』である」と称した。確かに、『スカイ・ハイ』は最強のスーパーヒーローの両親を持つ息子を主人公とし、彼がスーパーパワーを持つ子供たちとともに送る学園生活を描いたドラマである。

 そして何より、『ヒロアカ』の見やすい理由としてあがったのが、先の例に出てきたDCやマーベルに始まる多くのアメコミのように何十年にも何冊にも渡って描かれるキャラクターの背景などの知識が一切なくても楽しめることだ。これは意外と盲点なのだが、アメコミ読者は基本的に一つのキャラクターを追うにあたって、いくつもの異なる作者、異なる設定(時間軸や世界)のものを読んでいくことになる。それが結構大変なので、そこまで深堀りできるコア層以外はついていけないのだ。その点、主人公・デクのオリジンからスタートする『ヒロアカ』は、これだけをすぐに読み始めることができる手軽さがあり、超アメコミっぽいヒーロー漫画なのに「誰でも触れやすい」という点が実は密かに評価されているのだ。

観客評価の基準はキャラクターとペーシング?

 そしてもちろん、魅力的なキャラクターも人気のひとつ。緑谷の成長を捉えた本作は、いわゆる“何もできない主人公”が誰よりも強い(そして誰かを守る)ヒーローになるというプロットは、誰もが受け入れやすいお約束だ。彼がオールマイトから授かった「ワン・フォー・オール」という個性の使い方を、身を持って学んでいく姿は「大いなる力には大いなる責任が伴う」という『スパイダーマン』の哲学にも通じるものがある。

 そんなふうに主人公の物語を中心に描く作品が当たり前。しかし、海外ファンが何より『ヒロアカ』に驚くのは、彼の周囲の登場人物ほぼ全員にもしっかり焦点が当てられることだ。例えば緑谷の1年A組のクラスメイトたち。総勢20名(+担任の相澤先生)もいるにもかかわらず、爆轟の言葉を借りると誰も“モブ”として描かれない。それぞれの個性も、それぞれのキャラクターも物語の随所随所でちゃんと捉えられるようになっていて、その魅せ方が称賛されているのだ。しかし、海外アニメファンが本作を評価する大きな軸は他にある。

『僕のヒーローアカデミア』第2期第2クールPV

 シーズン1以降のロッテントマトのスコアをまず見ていこう。シーズン2(体育祭、保須市襲撃事件編)は観客スコア93%、シーズン3(林間合宿、神野区の悪夢、プロヒーロー仮免試験編)が批評家スコア100%、観客スコアが94%。シーズン4(ヒーローインターン編、文化祭編、ハイエンド編)は批評家スコアが100%、観客スコアが79%という変動になっている。批評家スコアが最高値を保つ一方で、やはり問題にすべきはオーバーホール戦などの見どころがあるシーズン4の観客評価が著しく下がっていることだ。なぜこのような結果になったのか。同サイト内の観客レビューでは「物語のペースがスローだったこと」、「キャラクターの性格が気に入らなかった(オーバーホールは幼女監禁および洗脳に虐待という行動から、海外ファンからは非常にシビアに見られている)」が主に挙げられている。

 実は、『ヒロアカ』が評価される大きな軸が「物語の進みの速さ」なのだ。従来のアニメは戦闘シーン以外を無駄なシーンで引き伸ばそうとしたり、同じようなシーンを何回も使ったりして結果あまりストーリーが進まないことがある。しかし、『ヒロアカ』は特にシーズン3で「これだけの話数でここまでもう描いてしまうのか!」と、出し惜しみしないスピード感が高く評価された。加えて、シーズン4への批判はよくシーズン2と比較されて行われることがあり、これはそれぞれのヴィラン、オーバーホールとステインのキャラクター人気に反映されているように感じる。実際、2017年のクランチロール・アニメアワードで「今年のヴィラン賞」1位に輝いたステイン。物語にも影響を与える彼の哲学が評価される一方でオーバーホールこと治崎廻のヴィラン哲学はわかりづらいとともに、あまり賛同されないものだったのだろう。

ヒロアカ「Hero too」ミュージックビデオ(MV)

 逆に彼への不人気に代わって、治崎に囚われていた壊理の人気が爆発的に高いものとなった。YouTubeに投稿されているような多くのリアクション動画で彼女の幸せをひたすら願う視聴者の声を聞くことができる。特に、文化祭で1年A組のライブを見た壊理がようやく笑ったシーンでの、彼女を捕らえ続けていたオーバーホールによる闇が晴れていく演出は海外ファンの間でも非常に評判が良く、それを見て泣くミリオにつられて泣く動画投稿者が続出。従来、こういった“学校イベント”的な回は「つまらない」と言われがちだったり、日本の独自の文化祭という要素が「わかりづらい」と言われたり、海外ファンにとってはコアなキャラファンでなければ楽しみづらい印象がある。しかし、ライブのクオリティや耳郎が英語で歌っていたことも含めて、この文化祭エピソードは「神回」として多くの視聴者に愛されている。

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