『ヒロアカ』TVアニメ第5期は物語設定の上手さが光る 「全編、修行編」の特異性と面白さ
堀越耕平氏による人気漫画『僕のヒーローアカデミア』(以下、『ヒロアカ』)が、新たな節目を迎えている。『週刊少年ジャンプ』での連載は、「終章」に突入。現在の展開(2021年5月17日時点:第312話)を読む限りここからラストに向かってどんどん盛り上がっていきそうだが、2014年7月の連載開始から7年が経ち、いよいよ佳境に入ってきた感がある。
なお、コミックスは30巻の節目を迎え、全世界累計発行部数が5000万部を突破(うち国内累計発行部数は3700万部。『ヒロアカ』の海外人気の高さを物語る数字だ)。現在はTVアニメの第5期が放送中で、一時はコロナ禍のあおりを受けたものの初の原画展となる『僕のヒーローアカデミア展 DRAWING SMASH』が開催中。横槍メンゴ氏や宇佐崎しろ氏といった漫画家も足を運ぶなど、同業者にも大いに刺激を与えている(ちなみに、本展のパンフレットにはあっと驚く『週刊少年ジャンプ』作家陣の描き下ろしイラストとコメントが掲載。来場時にはぜひチェックしてほしい)。8月6日には、第3弾となる映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』も公開予定。ゲスト声優として、ヒロアカファンを公言する吉沢亮の起用が発表され、話題を集めている。
かつてない『ヒロアカ』イヤーといっても過言ではない2021年。今回は、本作の魅力の中でも「修行編」に対するアプローチを紐解きつつ、そのエッセンスが収斂されたアニメ第5期の内容について語っていきたい。
※基本的に、アニメ化済みの第97話までの情報にとどめておくので、アニメ派の方はご安心を。ただ、5期の内容はその後の展開の布石になっている部分も大量にあるため(そこが超絶熱い!)、少々の“匂わせ”はご容赦いただきたい。
現在放送中のTVアニメ第5期では、主人公の緑谷出久が通うヒーロー養成校・雄英高校の1年生同士がチームを組んで対決する「合同戦闘訓練」の模様が描かれる。緑谷が属するヒーロー科のA組対B組のバトルが全5チームに分かれて展開し、そこにヒーロー科への編入を希望する心操人使が絡んでくる、というエピソードだ。
『ヒロアカ』はシリーズ全体を通して「成長」に重きが置かれており、緑谷の幼なじみでライバルの爆豪勝己や複雑な家庭事情を背負った轟焦凍、超が付くほど真面目な飯田天哉といった仲間たちの成長ぶりが克明に描かれるのが、この5期。各チームの試合において本作のテーマのひとつでもある「Plus Ultra(さらに向こうへ)」の精神が描かれ、それぞれのキャラクターが心身ともにパワーアップした姿を見せつけていく。能力値の底上げと人格の掘り下げを同時に処理しており、「学校の授業」というカテゴリに収めることで、取ってつけたような感覚もなく、必然性までもカバー。「合同戦闘訓練編」は、『ヒロアカ』自体の物語設定の上手さが光る内容でもあるのだ。
では、その中身について細かく見ていこう。1年A組とB組それぞれで4人組+αのチームを作り、片方をヒーロー、片方を敵(ヴィラン)に区分けして対抗戦を行う合同戦闘訓練。これは、オールドファンならニヤリとする内容だ。『ヒロアカ』ではこれまで、授業の一環として「屋内対人戦闘訓練」や「期末の演習試験」といった形で、生徒同士がチームを組んで任務に挑むエピソードが描かれた。今回の「合同戦闘訓練」は、アニメのシーズン1で描かれた「屋内対人戦闘訓練」の発展形。前回はA組の中でヒーローとヴィランに分かれて対決したが、今回はA組対B組へと拡大。
また、コアな情報だが、今回の舞台である「運動場γ」は、シーズン2の第33話「知れ!!昔の話」にもすでに登場している。この話は、緑谷が新たに身に着けた「ワン・フォー・オール フルカウル」をクラスメイトに披露した記念すべき回。いわば、緑谷が明確な進化を遂げて学校に帰ってきたメモリアルな場所であり、そこが再び舞台となることで、「合同戦闘訓練」のテーマが、「さらなる成長」であることが示唆されている。
これまで「体育祭編」や「林間合宿編」などで断片的にしか絡みがなかったA組とB組が本格的に相まみえる機会が設けられているのも、シリーズを追ってきたファンには嬉しいところ。さらに、体育祭編で緑谷と戦い、薫陶を受けた心操が満を持してカムバック。未来のプロヒーロー候補として急成長を遂げた姿を見せつける。こういった要素からもわかる通り、「合同戦闘訓練編」はこれまでに描かれてきた物語と密接に結びついているのだ。そしてそれは、『ヒロアカ』ならではの特長でもある。