『100日間生きたワニ』はアニメ映画として“失敗”なのか？　賛否分かれる“間”の使い方

　そしてこれに拍車をかけるのが、上田監督が語る「“間”の使い方」の問題だ。この間というのは、本作ではキャラクターとキャラクターの会話の間、あるいは場面が変換された際に間が空くシーンが多く存在する。それを指して実写的な間と語るのだが、そこに「想像する余地があり引き込まれる」と解釈するか、あるいは「単なる間延びしているだけ」と受け取るかは、とても判断が難しい。

　本作を褒める人はこの間を褒める意見が多く、確かに想像させる余地は大いにある。物語もワニの死というショッキングなことがあるとはいえ、過剰な説明セリフや演出などはなく、音楽も静かに寄り添うだけだ。各キャラクターが友人の死にどのように向き合うのか、静かに感じ入ることができるとも言える。一方で、各キャラクターの人物描写や演技が浅いこともあり、深く感じ入ることができないという意見もあって当然だろう。

　また63分の上映時間という点にも注目したい。近年はアニメ映画作品では60分前後の作品が多く誕生しており、2013年の新海誠監督の『言の葉の庭』や、2020年の『海辺のエトランゼ』、今年では『ARIA The CREPUSCOLO』も公開されている。それらの中には、1800円均一の作品も存在し、2時間の映画に比べて割高感があるかもしれない。

　しかしそれらの作品は監督やシリーズ、原作のコアなファン向けに制作されているのみならず、初見でも感じ入るものがあるようにと、丁寧な演出や美しい作画を積み重ねることで魅了する作品が多い。むしろ60分前後の作品はその分だけ映像や音楽の密度が高いとも言える状況だ。その比較をしても『100日間生きたワニ』は苦しい勝負となってしまう。

　ここまでは苦言が多くなってしまったが、考え方を改めると本作は原作の完結から約1年という短い制作期間で、監督はエンタメアニメを制作した経験に乏しく、既存の大手ステジオの力も借りずにここまで完成させたという点は、高く評価したい。画面のリッチさには劣るもの、作画崩壊と呼べるようなものはなく、原作に基づいてしっかりと全体的にアニメートされていた。限られた条件下で出来うる限りの最大限の結果を出すという意味において、丁寧な仕事でベストな状態の作品が誕生したと言えるだろう。

　共同監督を務めた上田監督と公私共にパートナーである、ふくだみゆき監督の『こんぷれっくす×コンプレックス』は、小規模制作作品ということもあり、エンタメ大作や商業的なアニメ作品と比較すると、アニメ表現の動きという点においては難があった。しかし、脇毛を起点とした若者たちの恋愛の物語と、役者の演技も合間ってインディペンデントなアニメとして高く評価され、賞を受賞している。本作もインディペンデントな表現の場であれば、もう少し評価は変わったであろうし、筆者も高く評価したかもしれない。

　だが、映画興行の世界は残酷なものだ。製作費が何百億円かかるような大作も、100年先に残るような傑作も、素人の筆者が作った駄作であったとしても、映画館にかかれば1900円という同じ土俵で評価される。そして『100日間生きたワニ』の場合、比較対象は全国でかかるようなエンタメ大作アニメ映画となってしまう。

　これがYouTubeでの無料配信であったり、あるいはTwitterで1日1分くらいの配信を100日続けるなどの形式であれば、ここまで批判はされなかっただろう。しかし、本作はあくまでも公開規模の大きなエンタメ映画である。昨年のプロモーションの失敗を含め、多くの状況が作品評価の点ではマイナス方向にいってしまった印象だ。

　全体的には、決して悪いだけの作品ではない。クリエイターたちは色々な意図のもと、自分たちにできることを全力で行い、作品を完成させた。そしてその意図が伝わる人もいれば、伝わらなかった人もいる。決して闇雲に叩かれるような作品ではなく、いい面もあれば悪い面もある、そんな普通の作品だ。

■公開情報
『100日間生きたワニ』
全国公開中
声の出演：神木隆之介、中村倫也、木村昴、新木優子、ファーストサマーウイカ、清⽔くるみ、Kaito、池⾕のぶえ、杉⽥智和、⼭⽥裕貴
監督・脚本：上田慎一郎、ふくだみゆき
原作：きくちゆうき『100日後に死ぬワニ』
コンテ・アニメーションディレクト：湖川友謙
音楽：亀田誠治
主題歌：いきものがかり「TSUZUKU」（Sony Music Labels）
製作：市川南、⼤⽥圭⼆
共同製作：藤川克平、中尾恭太、春⼭ゆきお、辻野学、五⽼剛
エグゼクティブプロデューサー：⼭内章弘、上⽥太地
プロデューサー：⾅井真之介、⼭中⼀孝
コンテ・アニメーションディレクト：湖川友謙
美術監督：徳⽥俊之
⾊彩設計：池⽥ひとみ
撮影監督：簡佳瑩
アニメーション制作：TIA
配給：東宝
製作：「100⽇間⽣きたワニ」製作委員会
(c)2021「100日間生きたワニ」製作委員会
公式サイト：100wani-movie.com
公式Twitter：@100waniMOVIE
公式Instagram：@100wanimovie