批評家の間でも賛否両論 アメリカ建国の歴史描いた『アメリカ THE MOVIE』の真価を探る

『アメリカ THE MOVIE』を解説

 『LEGO(R)ムービー』シリーズや、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)、『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021年)など、監督やプロデューサーとして、評価の高いアニメーション映画を次々と手掛けているフィル・ロード&クリス・ミラー。Netflixで配信されている『アメリカ THE MOVIE』もまた、彼らのプロデュース作品だ。

 しかし、このアメリカ建国の歴史を描いた『アメリカ THE MOVIE』を鑑賞してみて、そのメチャクチャさに混乱した人も多かったのではないか。それもそのはずで、本国アメリカの批評家たちですら、これに関してはかなり評価が割れ、やはり困惑し評価に困っている者もいるようだ。フィル・ロード&クリス・ミラーによる作品としても、この受け入れられ方は異例だといえよう。

 なにせ、チャニング・テイタムが声を演じる「建国の父」ジョージ・ワシントンが、チェーンソーを振り回すマッチョな男として描かれているばかりか、アメリカの他の偉人たちとともに知性の欠如した言動を繰り返し、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)さながらに、イギリスの大軍と直接格闘するのである。歴史上の人物たちの名前が次々登場するにもかかわらず、この冒涜ともとれる描写の連続に辟易する観客がいても、おかしくはない。ここでは、そんな本作が、実際には何を表現しようとしていたのを考えながら、その真意と真価を探っていきたい。

 物語は、エイブラハム・リンカーンが劇場で殺害されることで動き出す。彼を暗殺したのは、史実ではジョン・ブースだが、ここではアメリカの士官からイギリス軍に寝返った、アメリカにとっての国家的な反逆者であるベネディクト・アーノルドということになっている。しかも彼の正体は、鋭い牙と爪を持つ狼男なのだ。アーノルドは映画全編を通しての悪役となり、親友リンカーンを殺されたワシントンは、両腕に仕込んだチェーンソーを振り回し、アーノルドへの復讐と、英国からの独立を誓う。ちなみに、ワシントンの武器がチェーンソーなのは、少年の頃に桜の木を切り倒したという伝説に由来しているようだ。

 だが、この復讐劇は、そもそも成立し得ないものだ。なぜならリンカーンが生まれた年には、すでにワシントンは死去しているので、二人が親友であった事実がないからである。ともあれワシントンは、建国のため志をともにする仲間を集めていくことになる……。

 右腕となるのは、サミュエル・アダムズ。彼はアメリカの政治的指導者だが、ビール製造が家業だったため、後に彼の名前を使ったビールが販売されるようになったことから、本作では酒とパーティーが大好きな人物として描かれている。他にも、史実では米軍の虜囚となったはずのジェロニモ、中国系アメリカ人女性という設定のトーマス・エジソンなどがワシントンとともにアーノルドを追い、英国軍と戦うことになる。

 しかし、なぜ本作は史実を利用しながら、こんなめちゃくちゃな描写を繰り返すのだろうか。それは、本作を手がけたマット・トンプソン監督のかかわったアニメーション作品に触れることで理解できる。

 マット・トンプソンは、アダム・リード監督とのコンビで、アメコミヒーローを題材にした過激で皮肉なコメディー『Frisky Dingo』、『The Xtacles』などのTVアニメを作ってきた人物だ。これらは、アメリカを中心に、世界で放送を行っているTVアニメ専門チャンネル「カートゥーンネットワーク」の深夜帯「アダルトスイム」の枠で放送されていた作品である。「アダルトスイム」では、『リック・アンド・モーティ』など、子どもたちが観るには相応しくない、過激な大人向けアニメーション作品がひしめいている。

 そして、やはりアダム・リード監督と組んだTVアニメ『アーチャー』(当時の20thテレビジョン放送)が、国内で大きな成功を収めることになる。この作品は、アメリカの諜報員がミッションに挑戦していくという、スパイアクション・コメディーだ。これも過激かつ皮肉な内容で楽しめるのだが、私自身は『アーチャー』をこれまで他の人に薦めることはなかった。なぜなら『アーチャー』は、素晴らしく面白いコメディーであると同時に、異常なくらいに下ネタが連発する、良くも悪くも下劣極まりない内容だからだ。どれほど下品なのかというと、これを薦めることで人格に問題があると思われるおそれがあると感じるくらいである。ちなみに、Netflixでも鑑賞可能だ。

 ともあれ、これらの作品の内容を踏まえることで、マット・トンプソン監督が『アメリカ THE MOVIE』で何をやりたかったのか、理解が容易になるはずだ。

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