『ミッチェル家とマシンの反乱』にみる、フィル・ロードとクリス・ミラーのプロデュース力

『ミッチェル家とマシンの反乱』の新しい表現

 アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞し、大ヒットを果たした『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)。その製作に携わったヒットメイカー、フィル・ロードとクリス・ミラーが、新たなプロデュース作品として送り出した、3DCGアニメーション映画『ミッチェル家とマシンの反乱』が、Netflixで配信中だ。批評家や観客の評判は、驚くほど高い。

 登場するのは、両親と姉弟、犬で構成される、ミッチェル家の5人家族。なかでも姉のケイティと父親のリックの関係を中心に、物語は進んでいく。この2人は価値観の相違から、ここ数年折り合いが悪く、あまり良いコミュニケーションが取れていない。小さい頃からケイティは友達が少なく、ビデオ作品を撮ることが趣味だったが、リックは彼女が作品を撮り続け、大規模な映像作品に携わりたいと願う夢に対して、懐疑的な態度を取っていたのだ。

 ケイティが夢を追うためにカリフォルニアの大学に進学し、家族から離れて寮生活を送ることになったとき、リックは関係を修復するため、一家の母親のリンダ、弟のアーロン、犬のモンチとともに、ケイティをカリフォルニアまでの長距離ドライブに誘う。一家の一員が初めて離ればなれになる前の、最後の家族旅行である。そんな一家の旅が始まった頃、携帯端末とロボットたちが突如蜂起し、『ターミネーター』シリーズの未来世界のように、世界は機械の支配下となってしまう。旅行中の一家は、果たしてロボットたちの攻撃から逃れ、生き延びることができるのだろうか……。

 本作でまず目を引くのは、全体のアートワークだ。いままさに若い才能が爆発しているケイティが作りそうな、賑やかな手作りアルバムのように編集された映像によって、本作の物語は語られていく。この手作り風の世界観やキャラクターを創造したのは、『トロールズ』(2016年)、『絵文字の国のジーン』(2017年)にもスタッフとして参加した、本作のプロダクションデザイナー、リンジー・オリバレスである。

 オリバレスが手描きしたキャラクターやイメージボードは、まさに本作の、ジャンクだがセンスよくデコレーションされた雰囲気そのものだ。『スパイダーマン:スパイダーバース』では、主人公のイメージに合わせてヒップホップのテイストが全編にとり入れられ、これまでにないアニメーション映像が高い評価を得たが、本作の映像は、お金はないがクリエイティブな才能を次々に発揮するケイティの世界が、豊かに表現されているのだ。

 監督のマイケル・リアンダに見込まれ、「美術監督」とも呼ぶ、作品の重要ポストであるプロダクションデザイナーという大役に就任したのは、オリバレスにとって初めてのことだが、このチャンスに彼女の才能は、まさに作中のケイティと同化するように大爆発を起こし、CG作品の世界をきわめて個人的な感性で彩る中心人物となった。ちなみに、キャラクターたちはリアンダ監督の実際の家族を基にオリバレスがデザインし、ケイティのキャラクターも監督のパーソナリティをイメージしたものなのだという。

 CGアニメーションのリアリティへの接近、精細さやスケール感などで観客が驚嘆する時代は、もうすでに終焉を迎えている。『スパイダーマン:スパイダーバース』の成功や、本作の評判の高さから窺えるのは、個人的な感性が感じられるテイストの方に、観客の好みが回帰しているということだ。本作がオリバレスの手描きに近い風合いがCG作品で表現されたことで、表現方法自体は異なるものの、高畑勲監督の『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)や『かぐや姫の物語』(2013年)のように、手描きの魅力を表現するためにCGを利用するといった試みが、いまメインストリームに近づきつつあるといえるのである。

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