アニメ『呪術廻戦』虎杖悠仁役は声優・榎木淳弥の真骨頂 視聴者を没入させるリアルな芝居
榎木淳弥の芝居のすべてが詰まった第2話、学長との問答シーンは必見
そうしてわけもわからず呪術高専に入学することが決まり、学長と面談することになった第2話。「呪術高専で呪術を学んだ先に何を求めるか」の問答で、悠仁のなかにある“普通ではなくなった自分=自分にしか宿儺の器はつとまらない”という覚悟が徐々に掘り起こされてくる。
祖父の遺言から解放され、「生き様で後悔はしたくない」という思いに到達したこの一連の問答で悠仁は飛躍的な進化を遂げたのだが、このときの榎木の芝居がまた絶妙な塩梅だった。「なんかわからないけど東京まで連れて来られて、学長と面談することになっちゃった」と言わんばかりのフラットな感情から始まったシーンが、学長の言葉に揺さぶられながら、一瞬間で自身の心の深淵に到達し、また次の瞬間にはフラットなところまで戻っているーー榎木だからこそできる芝居だ。
先日開催されたイベント『じゅじゅフェス 2021』で、五条悟役の中村悠一がそのシーンの収録を振り返り「平常時の感情からつながりを保ったまま、別の感情への分岐を表していくという、榎木さんの役へのアプローチが自分とは真逆の手法で面白かった」と語っていたが、まさにその言葉どおり、普通の高校生が心を揺り動かしながら呪術師へと変わっていくさまがありありと見てとれる印象的なシーンとなっている。
『呪術廻戦』の放送開始時と同時期に、同じく主演を務めていた『トニカクカワイイ』は、榎木演じる由崎星空と謎の美少女・司の新婚生活を描いたラブコメディーだが、ここでも榎木はリアルな芝居にこだわったという。
コメディタッチで絵柄が可愛い作品のキャラクターを演じる際は、「ツッコミは大きく、焦るときはオーバーに」など、いわゆる“デフォルメ芝居”を求められることが多いが、榎木は「自分が本当に主人公のような状況に陥ったら、どんな声が出るんだろう? 焦ったとしても、そんなに大きい声は出ないだろう」と一つひとつのシーンで自分なりのリアルを追求していった。その結果、司との新婚生活がより生々しく視聴者の目に映り、星空の可愛さに多くの人が翻弄されたのだった。
繰り返しになるが、榎木淳弥の芝居のスタイルはハマる作品とそうでない作品(あるいは、ハマるキャラとそうでないキャラ)があるだろう。もちろん、演出側からデフォルメされた芝居を求められた際はプロとして全力で対応すると彼も言うとおり、作品ごとにベストを尽くしているだろうが、彼本来のスタイルに役がハマったときのパワーは計り知れないものがある。TVアニメ『呪術廻戦』はまさに、その代表例といえるだろう。12月24日より公開される『呪術廻戦』の前日譚を描いた『劇場版 呪術廻戦 0』も楽しみだが、虎杖悠仁の感情がさらに揺れていくであろうTVアニメ続編の制作が発表されることを期待したい。
■とみたまい
フリーライター。主に声優、アニメ、特撮などのジャンルにおいて、インタビュー取材を
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